進路を選ぶ・曲線を辿る — 走りながら向きを変える装置
レール上を自走する車両が、分岐器で進路を選び、曲線走行で向きを変える二つの機構を、鉄道・製鉄・港湾クレーンの実例から解説
1 はじめに — 走りながら向きを変える二つの形
姉妹記事転車台とトラバーサーは、どちらも装置が車両を載せて動かす機構でした。転車台は車両をその場で回して向きを変え、トラバーサーは車両を横へ送って位置を変えます。いずれも車両は自走せず、装置のほうが車両を動かします。
本記事が扱うのは、これとは別の二つの機構です。車両が自ら走りながら、レール側の幾何によって向きが変わります。一つは分岐器で、走行しながら可動レールで進路を選択します。もう一つは曲線走行で、単一の固定した曲線レールを辿ることで向きが変わります。前者は「進路を選ぶ」動き、後者は「決まった曲線を辿る」動きです。
図1 方向制御の四つの機構
| 転車台 | トラバーサー | 分岐器 | 曲線走行 | |
|---|---|---|---|---|
| 何が動くか | 装置が車両を回す | 装置が車両を横へ送る | 車両が自走しながらレールを選ぶ | 車両が自走しながら曲線を辿る |
| 向きの変化 | 変わる | 変わらない | 選んだ進路で変わる | 曲線ぶん変わる |
| 要点のある側 | 旋回機構 | 可動桁 | 軌道装置 | 走り装置 |
本記事は、material-handling サイトの既存記事が扱ったレール式搬送車両の、方向制御を担う三つ目・四つ目の機構を続編として解説します。まず鉄道分岐器の構造を押さえ、重量物を運ぶレールでは分岐がどう扱われるかを見ます。続いて、港湾クレーンなどで使われる曲線走行と、その工学的な解を追います。
2 分岐器の基本構造
分岐器は、レール上を走る車両の進路を分ける軌道装置です。走行してくる車両を止めずに、可動レールの向きを切り替えることで、目的の線路へ導きます。分岐器は「ポイント部」「リード部」「クロッシング部」の三つの主要な区分からなります(1)。
ポイント部には、先端が可動になったトングレールがあります。トングレールを左右いずれかの基本レールに密着させて転換することで、進路が決まります(1)。この転換を行う駆動装置が転てつ機で、列車の通過中にトングレールが意図せず動かないよう保持する鎖錠の機構と組み合わされます(1)。さらに鉄道では、分岐器の転換位置を信号や進路と結び付け、互いに矛盾する進路が同時に開かないよう拘束する連動(インターロッキング)の仕組みが、こうした分岐を安全に扱うための土台になっています。
リード部は、トングレールとクロッシング部を結ぶ区間です。分岐側は曲線になり、その曲線半径の大きさが、その分岐器を通過できる速度を大きく左右します(実際の制限速度は、これに軌道構造やカント、車両条件なども加わって決まります)(1)。クロッシング部は、二つのレールが交差する部分で、交差先端の「ノーズ」を持ちます。ノーズが固定された固定クロッシングと、ノーズを車輪の進行方向へ動かす可動クロッシングがあり、可動クロッシングは新幹線のような高速走行に使われます(1)。
クロッシングの交差角度は番数で表され、番数が大きいほど分岐の角度が緩く、通過制限速度を高くできます(1)。これらの部品は、独語圏でも Zungenschiene(トングレール)、Herzstück(クロッシング)、Weichenantrieb(転てつ機)と、日本語の三区分にほぼ対応する用語で呼ばれています(2)。
図2 分岐器の三区分と各部の役割
| 区分 | 主な部位 | 役割 |
|---|---|---|
| ポイント部 | トングレール、転てつ機、鎖錠装置 | 先端可動レールを基本レールに密着転換して進路を選ぶ |
| リード部 | 曲線区間 | ポイント部とクロッシング部を結ぶ。分岐側の曲線半径が通過速度を決める |
| クロッシング部 | ノーズ、可動/固定クロッシング | レールが交差する部分。可動クロッシングは高速走行に対応 |
3 分岐器とクロッシングの種類
分岐器は、分岐の方向で種類が分かれます。直線を基準に一方へ分ける片開き、左右対称に二方向へ分ける両開き、左右非対称に分ける振分があります(3)。
軌道どうしが交わる部分には、進路を選ぶ分岐器のほかに、単に交差するだけで進路を選択しないクロッシング(交差)があります。二つの軌道が分岐せず交差するだけのダイヤモンドクロッシングは、この交差だけを担う装置で、進路選択の機能はありません(4)。一方、隣り合う二線の渡り線が交差するシーサスクロッシングは、四組の分岐器と一組のダイヤモンドクロッシングを組み合わせた複合構造で、進路選択の機能を持ちます(4)。ダイヤモンドクロッシングは進路を選ばないため、本記事が扱う「進路を選ぶ」分岐器そのものではありませんが、線路配置のなかで分岐器と組み合わせて現れるため、あわせて整理します。
図3 分岐の方向による分岐器の種類と、交差部の構造
| 分類軸 | 種類 | 説明 |
|---|---|---|
| 分岐の方向(進路選択あり) | 片開き | 直線を基準に左右いずれかへ分岐 |
| 両開き | 直線軌道を左右対称に二分岐 | |
| 振分 | 左右非対称に二分岐 | |
| 交差部の構造 | ダイヤモンドクロッシング | 二軌道が分岐せず交差するだけ(進路選択なし=狭義の分岐器ではない) |
| シーサスクロッシング | 分岐器とダイヤモンドクロッシングを組み合わせた複合構造(進路選択あり) |
4 重量物を運ぶレールの分岐
重量物を運ぶレールにも、進路を分ける必要はあります。ただし、鉄道と同じ分岐器がそのまま使われるとは限りません。
重い荷を運ぶ鉄道では、分岐器そのものが大きな軸重に耐える仕様になります。オーストリアに本社を置く voestalpine の VAE は、重荷重貨物鉄道(Heavy Haul)用の分岐器が軸重 40 トンまで対応すると公称しています(5)。ただし原語の「tons」という表記からは、これがメートルトン(約 1,000 kg)か米トン(約 907 kg)かの区別はつきません。
製鉄所の構内では、分岐の事情が一般の鉄道と異なります。国立科学博物館の系統化調査は、製鉄業では一般の鉄道に比べて線路長は短いのにレイアウトが複雑なため、分岐が多くポイント切り替えが必要となることが多いと記録しています(6)。
蒸気機関車の時代には、転轍工がポイント切り替えのために転てつ機を人力で操作していました(6)。同調査によれば、新日本製鉄八幡製鉄所では昭和 43 年(1968 年)に転てつ機を電動化し、運転工と操車工が無線で連絡できるよう設備を改造することで、操車工と転轍工を統合し、2 名運転が可能になりました(6)。狭く複雑な構内で多数の分岐をさばくという製鉄所の事情が、ポイント操作の省力化を早くから促したことがうかがえます。
分岐や支線を設けて進路を分ける仕組みは、どのクレーンにも備わるわけではありません。レールの下面に沿って走るつり下げ式(under-running)天井クレーンと、これとは別種のモノレール(テルハ系)に特有で、軌道の上を走る一般的なレール上走行(top-running)天井クレーンには標準では備わりません(7)。こうした分岐・切り替えの仕組みは維持が難しく、効率よく稼働させ続けるのが難しいとも指摘されます(8)。重量物レールの分岐は、鉄道の分岐器ほど標準化されておらず、保守の面で固有の課題を持ちます。
このため、限られた敷地で決まった数の経路を結ぶ場合に、分岐器の代わりに、姉妹記事で扱った転車台やトラバーサーで進路を切り替える例があります。次節で見るように、レールそのものを転換するのではなく、レールを載せた可動桁ごと動かして進路を選ぶという発想です。専用の分岐器が標準化されていない領域で採られる一つの解です。
5 可動桁ごと動かして進路を切り替える
トラバーサーの「可動桁ごと横へ動かす」原理は、分岐器の代わりに進路を切り替える用途にも応用されています。可動レールで進路を選ぶのではなく、レールを載せた可動桁そのものを動かして、目的の線路をつなぐという考え方です。
超電導磁気浮上式鉄道(リニア)では、この考え方が高速用の分岐に採用されました。鉄道総合技術研究所の松浦章夫は、山梨実験線の高速用分岐装置に、安全性に優れた U 形状のトラバーサ方式を用いると述べています(9)。これは U 形断面の可動けたの下に台車を設け、駆動チェーンを介して油圧ジャッキで台車を移動させ、可動けたを関節的に転換する機構です(9)。レール片を密着転換する鉄道の分岐器とは異なり、ガイドウェイ(軌道)そのものを動かして進路を切り替えます。
松浦は、山梨実験線ではこの高速用に加え、低速で異なる軌道へ移るターミナル用には、側壁を簡易に移動させる側壁移動方式を用いる計画だと述べています(9)。500 キロメートル毎時級の高速用にはけたごと動かすトラバーサ方式を、低速用には側壁だけを動かす方式を、というように、速度域によって分岐の方式が使い分けられています(9)。
海外にも、通常の分岐器が使えないために可動桁を動かす例があります。スイスのピラトゥス鉄道は、1889 年開業、最大勾配 48 パーセントの世界最急のラック式鉄道です(10)。ロッヒャー式の側面で噛み合うラックを用いるため、通常の分岐器が使えず、代わりにトラバーサー(Schiebebühne、線路を載せた可動桁ごと横へ動かすもの)と線路転換装置(Gleiswender、レール片ごと向きを変えるもの)が用いられています(10)。いずれも通常の分岐器を代替しますが、動かす対象が可動桁かレール片かで機構は異なります。急勾配のラック鉄道という特殊な条件が、レール片を転換する分岐器ではなく、可動桁ごと動かす方式を選ばせています。
同じ「レールや軌道の一部を動かして進路を切り替える」発想は、産業用の搬送設備でも、異なる工学的アプローチで現れます。三井造船の実用新案「クレーンの走行レーン切替装置」(JPS59146379U、1983 年出願)は、交差部に旋回切替レールを設け、伸縮する平台車とクレーンを持ち上げるジャッキアップ手段を用いて走行レーンを切り替える方式です(11)。一方、日本シューターの実用新案「搬送台車設備の分岐部における直角転換装置」(JPS60144602U、1984 年出願)は、分岐部の転換軌道をラック・ピニオンで搬送軌道と直角方向へ水平にスライドさせ、そのあと回転軸で回転させて分岐軌道につなぐ、持ち上げを伴わない水平面内の二段階方式です(12)。同じレーン切替という機能に対して、垂直に持ち上げる方式と、水平にスライドさせる方式という二つの工学的アプローチが並び立っています。どちらの実用新案も、対応する荷重容量は明記していません(11,12)。
6 曲線走行 — 決まった曲線を辿って向きを変える
もう一つの機構が曲線走行です。分岐器が進路を選ぶのに対して、曲線走行では進路の選択はなく、単一の固定した曲線レールを辿ることで機体の向きが変わります。
この機構が使われる代表例が、港湾のクレーンです。原燃輸送は、その岸壁クレーンについて、曲線レールを通って 90 度方向転換し駐機場へ移動する曲線走行システムは世界でもめずらしいものだと説明しています(13)。クレーンを使わない時間に本体を 90 度回して駐機場へ退避させ、限られた岸壁を有効に使うための仕組みです。
同社は、使用済燃料やガラス固化体を扱う 150 トンの橋型クレーンと、低レベル放射性廃棄物などを扱う 50 トンの橋型クレーンを持ちますが、どちらが曲線走行を備えるか、またその具体的な諸元は公開していません(13)。事業者の自己評価にとどまるものの、曲線を辿って向きを変えるという発想が、狭い岸壁を使いこなすための工夫として実装されている例です。
港湾コンテナクレーンでは、この曲線走行がもっと体系的に扱われてきました。二つの岸壁がコーナーで接続している港では、クレーンを両岸壁で共有するために、曲線レールで岸壁の間を移動させることがあります。
クレーンをコーナーで結ぶ方法は、曲線走行だけではありません。Liftech の技術者は、コーナーで接する二つの岸壁の間でクレーンを移す方法として、台車でクレーンを運ぶ地下シャトルと地上シャトル、ドーナツ状の構造物がレールを支えて回る転車台、そして曲線レールの四つを比較しています(14)。
転車台は運用が最も単純ですが、最も高コストになります(14)。姉妹記事転車台で扱った旋回機構も、港湾クレーンの転線では、この四つの選択肢の一つとして現れます。曲線レールは、専用の大がかりな装置を要する他の方式に比べ、図4のコスト比較でも低く、レールの敷き方の工夫で済む点が利点です(14)。
図4 港湾クレーンをコーナーで結ぶ方式の概算コスト(Liftech の比較)(14)
| 方式 | 実プロジェクト事例 | 概算コスト |
|---|---|---|
| 地下シャトル | オークランド | 45 万ドル+(クレーン 1 基あたり 5 万ドル) |
| 転車台(地下式) | シーランド(ニュージャージー) | 150 万ドル |
| 転車台+地上シャトル | — | 転車台 120 万ドル、シャトル 35 万ドル+(1 基 5 万ドル) |
| 曲線レール(スイッチなし) | オークランド、タコマ(S 字曲線) | 20 万ドル+(1 基 25 万ドル) |
| 曲線レール(スイッチ付き) | グアム港、ポートエバーグレーズ | 50 万ドル+(1 基 35 万ドル) |
7 車輪はどうやって曲線を辿るのか — 踏面勾配と自己操舵
分岐器はレール側の装置で、曲線走行はレールの敷き方で向きを変えます。では、一本の輪軸で左右がつながった車輪が、自動車のような操舵機構を持たずに曲線を辿れるのはなぜか。その答えは、車輪とレールが接する面の幾何にあります。
鉄道車両の車輪踏面(レールと接する面)は、外側ほど径が小さくなる円錐状の勾配を持ちます。在来線では勾配 1/20 が基本です(15)。曲線に入って輪軸が外側のレール寄りへずれると、外レールに接する側は大径、内レールに接する側は小径になります。左右の車輪は同じ輪軸で一体に回るため、大径側が速く、小径側が遅く転がり、輪軸全体が曲線の側へ向きを変えます(15)。秋田県立大学の富岡研究室は、この踏面勾配による受動的な追従を輪軸の自己操舵機能と呼んでいます(15)。曲線の内側と外側でレールの経路長が違っても、左右の車輪径の差が転がる距離の差を生むため、輪軸は滑らずに曲線を追えます。
この自己操舵の効き方には、ボギー(台車)の前後車軸の間隔である固定軸距が関わります。固定軸距が大きいほど輪軸は剛体として振る舞い、急な曲線ほど追従しにくくなります。国土交通省の技術基準解釈基準は、車両の固定軸距に上限を定めており、普通鉄道(軌間 1067〜1435 mm)で 4570 mm 以下、新幹線で 3500 mm 以下としています(16)。重量物では、姉妹記事溶銑搬送で扱った東海製鉄向け 220 トン混銑車が、3 軸ボギー 4 組で固定軸距 2,200 mm としています。これは車両の全長を短くするために一般の 3 軸台車より小さく抑えたもので、レールとの切り合い角は小さくなる一方、曲線通過時の横圧はかえって大きくなると報告されており、追加車では中間軸の軸箱に大きな横動を許す構造で横圧を減らしています(17)。
固定軸距を小さくすれば急曲線を通りやすくなりますが、代わりに輪軸は蛇行動という左右の振動を起こしやすくなります。蛇行動は、自己操舵ゆえに輪軸が軌道中央へ戻ろうとする復元力が振動として現れる現象です(15)。富岡研究室は、蛇行動の安定性を重視する設計と曲線通過性能を重視する設計とが、踏面勾配や固定軸距といったパラメータで相反すると整理しています(15)。
図5 蛇行動の安定性と曲線通過性能の相反(富岡研究室の整理)(15)
| パラメータ | 蛇行動安定性を重視 | 曲線通過性能を重視 |
|---|---|---|
| 踏面勾配 | 小さく | 大きく |
| 固定軸距 | 大きく | 小さく |
自己操舵で追いきれないぶんは、レール側と車輪側の両方から補われます。レール側の対処がスラック(軌間拡幅)で、これは次節で扱うクレーンのゲージ変動とは別の概念です。曲線部では内側のレールを曲線の中心側へ少し広げて軌間を拡げ、固定軸距を持つ輪軸が通れるようにします。日本の鉄道では、曲線半径 600 m 以下で設けられ、曲線半径のランクにより 5 mm 刻みで、上限 30 mm までとされています(18)。車輪側の拘束がフランジ(つば)です。踏面での自己操舵が追従しきれず輪軸がレール寄りになったとき、フランジ側面がレール頭部を内側から受け止めます。豪州の鉄道業界標準化機構 RISSB は、各国の規格を比較し、フランジ側面の角度が概ね 65〜75 度の範囲にあり、急曲線ほど大きい角度が望ましいと述べています(米 APTA 旅客車両 72 度、EU 旅客車両 67 度、英 68〜70 度など)(19)。
こうした車輪-レールの幾何は、鉄道車両にとどまりません。重量物を運ぶ搬送台車も同じ課題を抱えます。中国の Henan Remarkable Intelligent Technology(RMK)は、定格 100 トンの電動レール搬送台車について、特殊な操舵ホイールセットまたはボギー設計により曲線・S 字・直角の経路を通過できると述べています。ただし、その機構の詳細は公開していません(20)。
8 曲線で生じる課題 — ゲージの変動
曲線走行の難しさは、曲線で内側と外側のレールの経路が変わる点にあります。港湾コンテナクレーンの設計を論じた Liftech の技術者は、クレーンが平行レールから曲線レールへ移る遷移区間では、陸側と海側のイコライザーピンが辿る経路が同じにならず、両者の間の距離(ゲージ)が変動すると指摘しています(14)。
このゲージの変動と区別すべきなのが「オフセット」です。オフセットは、海側の車輪がたどるべき理想的な曲線経路と、実際に敷いた海側レールとの最大のずれを指します(14)。このオフセットが、レール頭部と車輪フランジのすき間に収まるほど小さければ、すき間で吸収できます。しかし大きくなると、クレーン全体を横へずらすサイドシフト機構が必要になり、コストが大きく増えます(14)。
ロサンゼルス港のパイア 400 の例では、オフセットを標準的なすき間(25 mm)未満に収めるために、円弧曲線では平均半径 140 メートルが必要になるのに対し、螺旋(スパイラル)曲線を用いれば平均半径 85 メートルで足りると報告されています(14)。同じオフセットで比べると、円弧曲線は螺旋曲線より、一つの岸壁あたり 26 メートル、二つで合わせて 52 メートルの埠頭を余分に消費します(14)。曲線の形を工夫することで、埠頭が消費するスペースを減らせます。
レールが交差するフロッグ(交差部)では、レール頭部が途切れるため、車輪はフランジで走行します。このとき車輪の実効円周が隣の車輪と変わるため、少なくとも一方の車輪が走行面上で滑ります。フロッグを清潔・潤滑に保ち、この差動距離を最小にすれば、通常の駆動機構で問題にならないとされています(14)。
9 曲線走行の三つの解
曲線でのゲージ変動をどう吸収するかには、国ごとに異なる工学的な解が示されています。このうちサイドシフト方式は実際の港湾で用いられており、車輪の個別操舵と横行ビームのスライドは特許として公開された機構です。
図6 曲線走行の三つの工学的解
| 解法 | 出所(種別) | 機構 |
|---|---|---|
| クレーン全体の横移動 | 米 Liftech(港湾コンテナクレーン、実装事例あり) | サイドシフト機構でクレーンを横へずらし、フロッグではフランジで走行する(14) |
| 車輪の個別操舵 | 墺 Hans Künz(門型クレーン、特許 EP2832678A1) | 各車輪を鉛直な操舵軸まわりに個別に旋回させ、曲線走行時の摩耗を抑える(21) |
| 横行ビームのスライド | 日 スーパーツール(天井走行クレーン、特許 JP4285936B2) | 直線部と円弧部からなる走行レール上を走り、横行ビームの一端を回動軸に固定し、他端を別の回動軸へスライド可能に掛け渡して、円弧部で軸間隔が変わっても対応する(22) |
曲線走行では、数百トンにおよぶ大きな荷重が車輪とレールにかかるため、曲線での摩耗が課題になります(21)。この課題への解は、国ごとに異なります。
米国の港湾コンテナクレーンでは、クレーン全体を横方向にスライドさせるサイドシフト機構が用いられ、レールが交差するフロッグではフランジで走行させます(14)。クレーンの本体を動かして、曲線でのゲージ変動を吸収する方式です。
オーストリアの Hans Künz の特許(EP2832678A1)は、門型クレーン用のレール走行台車で、各車輪を運転位置で鉛直な操舵軸のまわりに個別に旋回させる機構を示しています(21)。各車輪が各点で最適な向きを取ることで、曲線走行時の摩耗を抑えるねらいです(21)。
日本のスーパーツールの特許(JP4285936B2)は、直線部分と円弧部分からなる一対の走行レール上を走る天井走行クレーンで、横行ビームの一端を一方の回動軸に固定し、他端を別の回動軸へ長手方向にスライドできるよう掛け渡す構造を示しています(22)。円弧部で回動軸間の間隔が変わっても、このスライドで対応できます(22)。従来の天井走行クレーンが一方向にしか動けなかったのに対し、この機構は方向転換を可能にし、工場の立地条件を緩めることを、特許はねらいとしています(22)。限られた敷地で退避のために向きを変える原燃輸送の岸壁クレーンと、動機の面で通じるところがあります。
同じ課題に対して、クレーン全体を動かす解、車輪ごとに操舵する解、桁のスライドで吸収する解が並び立っています。
曲線走行は、岸壁のように限られた敷地で経路を折り曲げなければならない現場に固有の工夫です。直線のレールで配置が足りる多くの重量物クレーンでは、曲線走行の機構は使われません。
10 曲線走行の設計論点
曲線走行を成立させるには、走り装置の摩耗対策のほかにも論点があります。
一つはスイッチです。直線レールから曲線レールへクレーンを移すスイッチは、鉄道の分岐器より複雑になります。コンテナクレーンの車輪は両側にフランジを持つため、直線走行時は曲線レールをよけ、曲線走行時は直線レールをよける切り替え位置が要るからです(14)。もっとも一般的なのは、片端を軸に超高分子量ポリエチレンのパッドの上で回る回転スイッチです(14)。
このスイッチ付きの曲線レールは、実は二つの機構が組み合わさった設備です。スイッチで直線か曲線かの進路を選ぶ部分は、可動レールこそ使わないものの、働きとしては分岐器(進路を選ぶ)と同じです。そのうえで、曲線を選んだあとは固定した曲線を辿ります(曲線走行)。曲線走行に進路の選択がないというのは、この曲線を辿る動きそのものについてであり、スイッチ付き設備では「進路を選ぶ」機構と「決まった曲線を辿る」機構が一つの設備のなかで直列につながっています。
もう一つは電力の受け渡しです。ケーブルや集電装置で給電するクレーンでは、スイッチ付きの曲線を通るときの電力伝送が課題になります(14)。これまでの解決策は簡易的で、クレーンに補助電源を積んで曲線通過中は集電装置を切り離す方法か、電源ケーブルをトレンチから外して引きずって運ぶ方法がとられてきました(14)。
11 まとめ — 二つの形はつながっている
分岐器と曲線走行は、どちらも車両が自走しながらレール側の幾何で向きを変える機構です。分岐器は可動レールで進路を選び、曲線走行は固定した曲線を辿ります。要点のある側も、前者は軌道装置、後者は走り装置と分かれています。
この二つは切り離されているわけではありません。分岐器のリード部は曲線であり(1)、選んだ進路の先では車両が曲線を辿ります。進路を選ぶことと曲線を辿ることは、一つの動きのなかで連続しています。
姉妹記事転車台とトラバーサーが扱った、装置が車両を載せて回す・横へ送る機構と合わせると、レール式搬送の方向制御は四つの機構で整理できます。装置が車両を動かすか、車両が自走しながらレール側で向きが変わるか、という違いが、四つを二つずつの対に分けます。製鉄所のレール式車両そのものについては、製鉄所の原料荷役・溶銑搬送・製鉄所構内の重量物搬送の各記事もあわせて参照してください。