製鉄所の原料荷役システム — 港湾から焼結工程まで
アンローダー・ベルトコンベヤ・貯蔵設備の技術発展史と現代の設備体系
1 はじめに — 原料荷役とは何か
一貫製鉄所の構内搬送は、大きく3つの層に分かれる。第1層は原料荷役(鉄鉱石・石炭の荷揚げ・貯蔵・焼結工程への供給)、第2層は溶銑搬送(高炉から転炉への溶融鉄の移送)、第3層は工程内搬送(鋳造後のスラブ・コイルの各工程間移動)である。本記事では第1層を扱う。第3層については製鉄所向け走行台車、第2層については溶銑・溶滓搬送技術でそれぞれ解説する。
川合(2008)は「鉄1トンを作るのに約10トンの原燃料を輸送しなければならない」と指摘し、製鉄業が本質的に「輸送業」の側面を持つことを論じている (1)。POSCO光陽製鉄所は年産2,200万トンの粗鋼を生産しており (2)、単純計算で年間2億トン超の原燃料を荷揚げ・貯蔵・供給している計算になる。この膨大な物量を効率的に処理するのが原料荷役システムである。
2 貨車輸送時代 — 人力から機械化へ
2.1 官営八幡製鉄所の荷役
明治34年(1901年)に創業した官営八幡製鉄所は、わが国最初の鉄鋼一貫製鉄所であった (1)。当時の高炉の年間生産能力は58,000トンで、釜石鉱山の約4倍であった (1)。原料の鉄鉱石は中国や東南アジアから海上輸送され、船槽内で作業員がスコップを使って専用容器に積み込み、船のデリックや岸壁のジブクレーンで荷揚げした (1)。石炭は筑豊炭田から川船や鉄道で運搬され、天秤棒やざるリレーで人力荷揚げが行われていた (1)。
2.2 貨車による構内搬送
荷揚げされた原料は貨車に積み込まれ、蒸気機関車でヤード(貯鉱場・貯炭場)に運搬された。軌間は九州鉄道と同じ1,067 mm(3フィート6インチ)に定められ、現在もこれを踏襲している (1)。創業当初は全所で蒸気機関車8台、線路は22 kmであった (1)。
ヤードでの荷の払い出しは貨車側壁下部の扉を開いて行い、高架橋から投下して山積みにする方式が一般的であった。払い出し後の次工程への供給もスコップと手押し車による人力作業であり、多くの製鉄所では昭和30年(1955年)頃まで貨車輸送が主要な原料搬送手段であった (1)。
国産蒸気機関車は明治34年(1901年)に汽車製造(現・川崎重工業)が台湾向けに1号機を製造したのが最初であり、製鉄業向けには大正8年(1919年)に日本車輌製造から浅野製鉄所(現・JFEスチール東日本製鉄所京浜地区)に納入されている (1)。
3 ベルトコンベヤシステム — 貨車からの転換
3.1 転換の背景
戦後の高度経済成長期に粗鋼生産量が急増すると、貨車輸送では処理能力の限界が明らかになった。1950年代後半から、製鉄所構内の原料搬送はベルトコンベヤシステムへの転換が進められた。ベルトコンベヤは連続搬送が可能であり、大容量化・長距離化・自動化に適している。
ベルトコンベヤの設計計算はISO 5048(抵抗計算法)およびJIS B 8805(エネルギー変換法)で規定されている (3)。両規格は計算手法が異なるため設計者は適用規格に注意が必要である。参考書としてはCEMA(Conveyor Equipment Manufacturers Association)の”Belt Conveyors for Bulk Materials”第7版(815ページ、ISBN: 978-1-891171-44-4)が業界標準として知られる (4)。
3.2 スチールコードベルトの大容量化
現代のスチールコードベルトは飛躍的に大容量化しており、Continental(旧Phoenix)のPhoenocord ST10000は破断強度10,000 N/mm・ベルト幅3,200 mmで世界最強を誇る (5)。2019年にチリのチュキカマタ銅山に設置され、2024年にはブラジル工場をST10000対応に拡張している (6)。国内では横浜ゴムがスチールコードベルト最大5,400 N/mm・幅2,800 mmを製造している (7)。
3.3 密閉型パイプコンベヤ
粉塵対策として密閉型パイプコンベヤの普及も進んでいる。パイプコンベヤはベルトを管状に成形して搬送するため、搬送経路の98%を密閉化し粉塵飛散を構造的に抑制できる (8)。曲線搬送も可能であり、従来の開放型コンベヤに比べて設置自由度が高い。環境規制が厳格化する先進国の製鉄所・発電所で採用が増加している。
4 貯蔵設備 — ヤードからドーム・サイロへ
4.1 屋外ヤードとスタッカ・リクレーマ
原料ヤードにおける堆積・払出しを担うのがスタッカ・リクレーマである。スタッカ(積付機)はベルトコンベヤで搬送された原料を旋回ブームでヤードに堆積し、リクレーマ(払出機)はバケットホイールでパイル面を掘削して払い出す。両機能を1台に統合した複合機(スタッカ・リクレーマ)が製鉄所・発電所の標準設備として定着している。
川崎重工業は累計200基以上の大型スタッカ・リクレーマを納入しており、バケットホイール径6 m(8バケット/回転、1回転あたり約2トン掘削)・積付能力2,000〜5,000 t/h・ブーム長最大40 m・設計寿命約30年という仕様で展開している (9)。超音波センサーを用いた自律払出制御により、最適な掘削位置を自動判断する無人運転が実用化されている (9)。
UBEマシナリーはスタッカ・リクレーマ複合機で3,600/1,300 t/h(積付/払出)の実績を持ち、コンピュータによる完全遠隔操作・自動運転に対応する (10)。IHI運搬機械はリクレーマ能力で最大8,000 t/hの実績を持つ (11)。
海外ではTAKRAFが500〜20,000 t/h の範囲をカバーし、ブーム長25〜60 m・レールゲージ6〜20 mの大型機を100基以上納入している (12)。ArcelorMittal Port-Cartier港(カナダ)では、鉄鉱石取扱能力を16 Mtpaから24 Mtpaに増強するプロジェクトとして、既存の2,000 tphスタッカ・リクレーマを8,000 tphに更新し、72インチ幅のコンベヤを新設した (13)。Thyssenkrupp Industrial Solutionsは3Dパイルスキャン・衝突回避を統合した完全自動制御を実現し、車載散水システムによる粉塵抑制を標準装備としている (14)。
スタッカ・リクレーマの世界市場は2024年に約11.9億ドル、2031年には約20.2億ドル(CAGR 8.0%)に成長すると予測されている (15)。
4.2 ドーム式貯蔵
環境規制の強化に伴い、屋外ヤードからドーム式・サイロ式の屋内貯蔵への転換が世界的に進行している。Geometrica社(米国)は200 m超のスパンを持つバルク貯蔵ドームを40カ国以上に展開し、稼働中のストックパイル上への建設も可能としている (16)。チリのEnel発電所では30万トン以上・46,000 m²の石炭貯蔵をドーム2基でカバーした事例がある (16)。
4.3 サイロ式貯蔵
川合(2008)によれば、わが国初の本格的なサイロ式貯蔵装置は、昭和61年(1986年)に電源開発石川発電所に設置された三井三池製作所製の設備で、4槽×31,000トン・合計約124,000トンの貯蔵能力を持つ (1)。払出しには回転ホイール式払出機が採用された。神戸製鋼所神戸製鉄所には三菱重工業広島製作所製のペレット貯蔵装置(4,400 m²×8基)が設置されている (1)。
その後、中国電力三隅発電所(33,000トン/基×12基)、電源開発橘湾火力発電所(70,000トン/基×8基)、関西電力舞鶴発電所(100,000トン/基×3基)など大型化が進んだ (1)。
5 アンローダー — グラブバケットから連続式へ
5.1 グラブバケット型の時代
初期の荷揚げは人力に依存していたが、機械化の進展とともにジブクレーン、さらにグラブバケット型アンローダーが導入された。グラブバケット型は構造が単純で信頼性が高い反面、荷役が間欠的(グラブの開閉・昇降サイクルごとに搬送が中断する)であり、大型船舶の荷役に時間を要する。定格能力は一般に400〜2,600 t/hで、連続アンローダーに比べて同等以上の設備規模に対して能力が劣る。
一方で、グラブバケット型は多品種の原料に対応でき、初期投資が連続式より低いという利点がある。インドのTata Steel Jamshedpur製鉄所では、TRF Limited(1962年設立、Tata SteelとACC Limitedの出資)が製造するグラブ式荷揚機が現在も主力設備として使用されている (17)。プログラマブルロジックコントローラ、無飛散グラブ、ホッパー計量システムを装備し、近代化が図られている (17)。
5.2 連続アンローダーの誕生
製鉄業における連続アンローダーの導入は、昭和51年(1976年)11月に住友重機械工業と新日本製鉄が共同開発し、大分製鉄所に設置した世界初のバケットエレベータ(BE)式連続アンローダーに始まる (1)。定格能力は300 t/h、対象物は蛇紋岩・石炭で、鉄鉱石は含まれていなかった (1)。このアンローダーはブームを旋回する機能を備えていたが、掘削部を旋回する機能は持っておらず、ハッチ口より船槽の広い船の荷役には適していなかった。副原料の荷役に使用されていたが、平成14年(2002年)に廃棄されている (1)。
現代型連続アンローダーの原型は、昭和58年(1983年)7月に四国電力西条火力発電所に設置されたBE式である (1)。このアンローダーは掘削部が旋回できる構造で、バケットエレベータで持ち上げた取扱物を回転フィーダを介してブームコンベヤに払い出す方式を採用した。掘削部の旋回機能が備わったことで掘削作業が容易となり、掘削効率が飛躍的に向上した (1)。
昭和60年(1985年)1月には苫東コールセンターに80,000 DWT対応・定格能力1,200 t/hのBE式が石川島播磨重工業(現・IHI)と住友重機械工業からそれぞれ1台ずつ納入され、大型化が実現した (1)。
5.3 方式別の特徴
連続アンローダーには複数の方式があり、対象物と要求性能に応じて使い分けられる。
| 方式 | 原理 | 最大能力 | 主要メーカー | 適用 |
|---|---|---|---|---|
| バケットエレベータ(BE)式 | バケットチェーンで連続掘削・昇降 | 4,000 t/h | 住友重機械、IHI | 鉄鉱石・石炭(主力) |
| バケットチェーン式 | BE式の大型版、特許digging foot搭載 | 8,000 t/h | TAKRAF | 大型プロジェクト |
| スクリュー式 | 垂直スクリューで掘削・搬送 | 3,000+ t/h | Bruks Siwertell | 環境重視、多品種 |
| バケットホイール式 | 回転ホイールで掘削 | 3,000 t/h | Thyssenkrupp | 石炭・鉄鉱石 |
| ニューマチック式 | 空気圧で吸引搬送 | 425 t/h | FLSmidth | セメント・穀物(軽量物) |
BE式は製鉄所原料荷役の主力方式であり、やじろべえ型バランス機構(下部走行体+上部旋回体)を採用する。掘削機能は垂直掘削・旋回掘削・カテナリー船底クリーニングの3種類があり、船倉形状に応じて自動的に切り替える (18)。駆動はかつて油圧方式が主流であったが、保守コストと油漏れリスクの問題からインバータ制御電動駆動への転換が進み、現代機ではシリンダー系以外が全て電動化されている (18)。
5.4 現代の連続アンローダー技術
住友重機械搬送システム(旧住友重機械エンジニアリングサービス)は、1976年の世界初号機以来、累計90基以上のBE式連続アンローダーを納入している (19)。鉄鉱石用として最大3,500 t/h、石炭用では台湾電力林口発電所向け2,200 t/h×2基(2013年受注、世界最大級)の実績を持つ (20)。インバータ制御による全電動化、ティーチング・プレイバック自動運転、予防保全センサー診断が標準技術として確立されている (18)。
IHIは鉄鉱石用として世界最大能力4,000 t/hを納入した実績を持ち、30万DWT級のVLOC(超大型鉱石運搬船)に対応する (21)。2012年にはフォルモサ・ハティン製鉄所(ベトナム)向けに鉄鉱石3,000 t/h・石炭2,100 t/h×2基を受注している (21)。
海外では、TAKRAF(独、Tenova傘下)がバケットチェーン式でカタログ上800〜8,000 t/h・35万DWT対応の超大容量機を展開し、2016年にはブラジル・ペセン港に2,400 t/h・125,000 DWT対応のCSUを納入した (22)。ペセン港のCSUは機体重量約1,800トン、バケットチェーンエレベータ高さ約35 m、イタリアで設計・中国で製造・ブラジルでコミッショニングという国際分業体制で建造された (22)。Bruks Siwertell(スウェーデン)は完全密閉スクリュー式で200〜3,000+ t/hの範囲をカバーし、環境性能を最大の差別化要因としている (23)。2024〜2025年にかけてフィリピン・ルソン港、クウェート、米国セメントターミナルで新規受注が続いている (24)。
5.5 連続アンローダーの能力推移
1976年の世界初号機から約50年間で、連続アンローダーの能力は10倍以上に拡大した。
| 年代 | 代表的能力 | 対応船型 | 事例 |
|---|---|---|---|
| 1976年 | 300 t/h | 小型船 | 住重 大分製鉄所1号機 |
| 1983年 | 1,000 t/h | 〜3,000 DWT | 四国電力西条火力 |
| 1985年 | 1,200 t/h | 80,000 DWT | 苫東コールセンター |
| 2010年代 | 3,000〜4,000 t/h | 30万DWT | 住重/IHI ベトナム案件 |
| 現代 | 最大8,000 t/h | 35万DWT | TAKRAF カタログ上限 |
6 海外製鉄所の原料荷役
世界の主要製鉄所の原料荷役設備は、生産規模に応じて巨大化している。POSCO光陽製鉄所は高炉5基・粗鋼年産約2,200万トンの規模を持ち、No.1高炉は内容積6,000 m³で世界最大級である (2)。宝山鋼鉄(上海)は中国を代表する大型一貫製鉄所であり、グラブ式荷揚機とコンベヤベルトによる原料ヤードを運営している (25)。Tata Steel IJmuiden製鉄所(オランダ)では170,000トン級の大型船舶が毎日着岸し原料を荷揚げしている (26)。
7 環境対策
原料荷役における粉塵対策は、発生・拡散・吸入の3段階で実施される。
発生源対策として、密閉型パイプコンベヤ、スクリュー式アンローダー(Bruks Siwertell)、ドーム式貯蔵が採用される。搬送経路を構造的に密閉することで、粉塵の発生自体を抑制する。拡散防止としてミストスプレー散水(Thyssenkruppのスタッカ・リクレーマでは車載散水システムが標準装備 (14))、防塵壁・防風フェンスが設置される。受動的対策として作業員への防塵マスク着用義務がある。
日本の大気汚染防止法では一般粉塵発生施設からの粉塵排出基準が定められており、原料ヤードの管理は製鉄所の環境管理上の重要課題である (27)。世界的にも屋外ヤードから屋内貯蔵への転換圧力が高まっており、前述のドーム式貯蔵の普及はこの規制強化が駆動力である。
8 自動化・インテリジェント化の動向
連続アンローダーの自動化は急速に進展している。住友重機械搬送システムのティーチング・プレイバック・システムは、最初の荷役動作(掘削パターン)を手動操作で記憶させ、以降は自動再生する方式である (18)。IHIはベトナム納入機で自動運転を実現している (21)。いずれも主要部品に監視センサーを取り付け、残存寿命を自動診断する予防保全機能を標準装備する。
AIST(Association for Iron & Steel Technology)のMaterial Handling Technology Committeeは、製鉄所の原料荷役技術に関するセミナー・ワークショップを定期的に開催しており、自動化・省エネルギー・環境対策が主要テーマとなっている (28)。
9 主要メーカー
| メーカー | 国 | 方式 | 最大能力 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| 住友重機械搬送システム | 日本 | BE式 | 3,500 t/h | 1976年世界初、累計90基以上 |
| IHI | 日本 | BE式 | 4,000 t/h | 世界最大能力、VLOC対応 |
| TAKRAF | ドイツ | バケットチェーン式 | 8,000 t/h | 超大容量、35万DWT |
| Bruks Siwertell | スウェーデン | スクリュー式 | 3,000+ t/h | 完全密閉、環境性能最高 |
| Thyssenkrupp | ドイツ | バケットホイール式 | — | 無粉塵・低騒音設計 |
| 川崎重工業 | 日本 | — | — | スタッカ・リクレーマ累計200基以上 |
| 三井E&S | 日本 | — | — | 旧三井三池製作所、サイロ式貯蔵 |
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