溶銑・溶滓搬送技術 — トーピードカーとラドル搬送
一貫製鉄所における溶融金属の構内搬送技術の発展
1 はじめに — 溶銑搬送の位置付け
一貫製鉄所における構内搬送は3つの層に分かれる。第1層の原料荷役(原料荷役システム参照)が鉄鉱石・石炭を焼結工程まで供給し、第3層の工程内搬送(製鉄所向け走行台車参照)が鋳造後のスラブ・コイルを移動させる。本記事で扱う第2層は、高炉から出銑された約1,500 ℃の溶銑を転炉(製鋼工場)まで搬送する工程であり、高温・大重量・安全性の3要件が設備設計を支配する。
2 鍋台車の時代 — 官営八幡製鉄所から
2.1 初期の溶銑・溶滓搬送
明治34年(1901年)に創業した官営八幡製鉄所では、当初から高炉から出てきた溶銑および溶滓をそれぞれ鍋に受けて搬送した (1)。溶銑を入れた鍋は製鋼工場に運ばれてクレーンで吊り上げられ混銑炉に投入し、溶滓を入れた鍋は排滓場でクレーンにより排出した。この基本形態は現在も変わっていない (1)。
昭和10年(1935年)の釜石製鉄所では、溶滓を貨車で裏山まで運び上げクレーンで投棄しており、溶滓が夜の市街を明るくする光景は名物であったという (1)。その後、鍋を台車に載せたまま傾けて排出する傾倒式溶滓鍋車が開発され、埋め立て用途への溶滓処理が合理化された (1)。
2.2 鍋形状の進化
溶銑を入れる鍋は、当初は上部が開放されていた。しかし温度降下を嫌う溶銑用には蓋付きの鍋が導入された (1)。保温の必要がない溶滓用には現在も開放形の鍋が使用されている。搬送中の温度管理は溶銑搬送の根本的課題であり、鍋台車方式では搬送距離に応じて50〜150 ℃/時の温度降下が生じる (2)。
3 混銑車(トーピードカー)の導入と発展
3.1 平炉からLD転炉への転換
昭和30年(1955年)以前の製鋼は平炉を用いて行われていた。平炉は1サイクルが3時間を超えるため、溶銑は一時的に混銑炉に蓄えられた (1)。しかし昭和30年代にLD転炉が主流となると、1サイクル1時間未満で大量の溶銑が必要となり、混銑炉を経由しない直接搬送が求められた (1)。混銑炉の代わりとなるよう大容量・高保温性・傾倒排出可能な搬送容器として、円筒形の炉体を持つ混銑車(トーピードカー)が開発された。
3.2 わが国への導入
混銑車は欧米では1910年代から使用されていたが、わが国では昭和36年(1961年)に導入されたのが最初である (1)。石川島播磨重工業(現・IHI)がドイツのGHH(Gutehoffnungshütte)から技術導入し、住友金属工業和歌山製鉄所に130トン混銑車を納入した (1)。GHHは1780年創業の老舗であり、1969年にM.A.N.傘下、1997年にSMS groupが冶金部門を買収している (3)。
日立製作所は大同製鋼とGHHの技術提携に基づき、東海製鉄(現・日本製鉄名古屋製鉄所)に220トン混銑車4両と制御用地上設備一式を納入した (4)。この混銑車は溶鉄積載量220トン(耐火物消耗時250トン)、12軸構成で最大軸重37.5トンに達する (4)。
混銑車の構造は、円筒形の炉体の両側にある軸受(トラニオン)を中心に回転でき、遊星歯車式減速機と傾動用電動機で溶銑を排出する (1)。東海製鉄向けでは遊星歯車を3段に組み合わせた減速比4,140の高減速比減速機が採用された (4)。炉体は回転軸に対して偏心が与えられており、傾動中に停電した場合は偏心モーメントにより自動的に復帰する安全機構を備えている (4)。前後の台枠が分かれており、炉体をできるだけ大きくするために台枠を分割し、炉体自身の強度で前後をつないでいる (1)。
八幡製鉄工作本部(現・日鉄エンジニアリング)は海外との技術提携なく自社開発し、昭和40年(1965年)に堺製鉄所に250トン混銑車を納入した (1)。八幡製鉄所の初期の150トン混銑車は現在も北九州市八幡東区の東田高炉記念広場に展示保存されている (1)。
3.3 大型化と車輪技術
混銑車の搬送能力は車輪数に依存する。一般の鉄道車輌では車輪直径860 mmで最大輪重9トン程度であるが、低速運転の製鉄所車輌では最大輪重18〜20トンで使用される (1)。車輪に熱処理を加えて輪重20トン超で使用する場合もある。ボギーの構造としては2軸ボギーと3軸ボギーがあり、ピン構造と心皿(焼き付き防止のため強制潤滑)で鉛直荷重を支え、曲線走行時の横圧力を低減する (1)。東海製鉄向け220トン混銑車では3軸ボギー4組構成とし、固定軸距2,200 mmを実現した (4)。炉体を支持する中間台枠上には球面心皿を採用し、車端衝撃150トンに対して炉体への伝達力を93トンに低減する効果が理論計算と実測で確認されている (4)。釣合梁式ボギーは輪重バランスが良く軟弱地盤上を走行する製鉄所用鉄道車輌として不可欠な技術である (1)。
| 構成 | 車輪数 | 搬送能力 | 事例 |
|---|---|---|---|
| 2軸ボギー×2台 | 8輪 | 80トン | 初期型 |
| 2軸ボギー×4台 | 16輪 | 150トン | 和歌山・八幡 |
| 3軸ボギー×4台 | 24輪 | 250トン | 堺製鉄所 |
| 2軸ボギー×8台 | 32輪 | 320トン | 君津製鉄所 |
| 3軸ボギー×8台 | 48輪 | 600トン | 大分製鉄所 |
車輪数を増やすとヨーク(釣合梁)が多段に重なるため炉体の高さが増し、軌条幅との関係で安定性の限界が生じる (1)。
3.4 軌間の拡大
従来の製鉄所はJRとつながっており軌間は1,067 mmを使用していたが、昭和39年(1964年)以降に建設された製鉄所では標準軌1,435 mm(4フィート8.5インチ)を採用している (1)。新日本製鉄名古屋・堺・君津、神戸製鋼所加古川、住友金属工業鹿島等が標準軌であり、大分製鉄所ではさらに広い1,676 mm(5フィート6インチ)を使用している (1)。軌間を広くすることで車体の安定性が増し、搬送能力を拡大できる。
3.5 保温性能とトーピードカーの利点
トーピードカーの最大の利点は保温性能にある。円筒形の炉体は開口部が小さく、最大30時間の保温が可能で温度降下は10〜20 ℃/時に抑えられる (5)。鍋台車方式では4時間・50〜150 ℃/時の温度降下が生じるため (2)、搬送距離が長い大型製鉄所ではトーピードカーが有利である。
4 現代のトーピードカーメーカー
4.1 国内メーカー
コベルコE&Mは250トン混銑車を製造している。炉体を中国、台車車体を韓国で海外調達するグローバル分業体制を採用し、高アルミナレンガによる内張り・機関車牽引方式が特徴である (6)。日鉄エンジニアリングは旧八幡製鉄工作本部の流れを汲む製鉄プラント事業を手掛けているが、混銑車単体の公開製品情報は限定的である (7)。
4.2 海外メーカー
大連華鋭重工(中国)は2021年に世界初のインテリジェント型335トン溶銑搬送車を開発し、中国宝武鋼鉄が20両を発注した (8)。新エネルギー車技術(磁気同期モーター)を転用した無人走行型であり、製鉄所の自動化・省人化の先端事例である (8)。
CSMC(台湾、中鋼機械)は300トントーピードカーを製造し、詳細な寸法仕様を公開している (9)。CEC(独)は80〜320トンの範囲をカバーする (10)。
4.3 海外の運用事例
Tata Steel Jamshedpur製鉄所(インド)は320トントーピードカーを48台運用し、高容量トーピードカーの設計で特許を取得している (11)。Tata Steel IJmuiden(オランダ)では450トン・16軸の混銑車が確認されており、Web上で確認できた最大容量の事例である (12)。POSCO(韓国)は300トン混銑車を光陽・浦項の両製鉄所で運用している (13)。
4.4 主要メーカー比較
| メーカー | 国 | 容量範囲 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| コベルコE&M | 日本 | 250トン | 炉体:中国、台車:韓国のグローバル分業 |
| 日鉄エンジニアリング | 日本 | — | 旧八幡工作本部、自社開発 |
| 大連華鋭重工 | 中国 | 335トン | 2021年世界初の無人走行型 |
| CSMC | 台湾 | 300トン | 詳細寸法仕様を公開 |
| CEC | ドイツ | 80〜320トン | 欧州向け |
| Tata Steel | インド | 320〜450トン | 48台運用、特許取得 |
Dango & Dienenthal(独)はデスラッギングマシン等の周辺機器専門メーカーであり、トーピードカー本体は製造していない。
5 鍋台車方式の存続
トーピードカーの普及にもかかわらず、鍋台車方式は一定の存在感を維持している。JFEスチール西日本製鉄所福山地区では、脱硫・脱燐等の溶銑予備処理の容易性や撹拌効果の高さを重視して、現在も鍋台車を使用している (1)。トーピードカーは細長い形状のため炉内の溶銑が撹拌されにくく、KR法(機械攪拌法)による脱硫処理はインペラーを挿入できる鍋方式が適している (14)。
KR法はインジェクション法と比較して脱硫コストを約45%削減でき (2)、安価な石灰(CaO)のみで硫黄を数十ppm以下に低減可能である。1965年に開発され、2000年代にはCaO-Mg系フラックスへ進化した (2)。
溶銑予備処理は脱珪→脱硫→脱燐の順に実施される。脱燐処理にはSi含有量0.15%未満が前提条件であるため、脱珪が先行する必要がある (14)。全工程を逐次処理すると溶銑温度は100 ℃以上降下するため、搬送容器の保温性能が処理効率に直結する (2)。
トーピードカー内での溶銑予備処理も試みられたが、細長い炉体形状のため溶銑の撹拌効率が鍋方式に劣り、結果として鍋内での処理が主流となった (14)。この事実は、トーピードカーの保温性能(搬送面)と鍋台車の処理適合性(冶金面)のトレードオフを示しており、製鉄所ごとに最適な搬送容器が異なる根拠となっている。
鉄と鋼誌に掲載された「溶銑予備処理技術の発展の歴史と将来展望」(2014年、100巻4号)には、1960年代から現在に至る日本の溶銑予備処理技術の発展史が詳述されている (15)。2001年にはフッ素溶出基準の強化に伴い蛍石の使用が制限され、スラグ処理技術の転換点となった (16)。
6 耐火物技術
トーピードカーの内張り(ライニング)は、過酷な使用環境に耐えるため部位ごとに異なる耐火物が使い分けられる。
6.1 ライニング構成
作業層(ワーキングライニング)にはAl₂O₃-SiC-C(アルミナ・炭化ケイ素・カーボン)系煉瓦が主力で、耐酸化性・耐食性・耐熱衝撃性に優れる (17)。アルミナは高融点・高硬度・化学安定性を、炭化ケイ素は高温での耐酸化性を、カーボン(黒鉛)は温度上昇とともに強度が増加し急冷急熱への耐性を提供する。口部にはキャスタブル(高機械的強度)、補修にはショットクリート(ホットリペア用)が用いられる (17)。
高スラグ耐食性が必要な場合にはMgO-C(マグネシア・カーボン)系煉瓦が選択される。スピネル(MgAl₂O₄)を添加したAl₂O₃-SiC-C-MgAl₂O₄系は改良版として耐食性がさらに向上している。
6.2 寿命と摩耗
320トン級トーピードカーのキャンペーンライフは約1,000トリップであり、平均摩耗速度は約0.10 mm/トリップである (18)。摩耗のメカニズムは、液体金属・スラグの乱流による機械的摩耗と、脱硫・脱珪処理時の化学的侵食の複合作用である (17)。主要な耐火物メーカーとしてSaint-Gobain(仏)、HWI(米)、品川リフラクトリーズ、黒崎播磨(日)がある。
7 構内鉄道と機関車
7.1 蒸気機関車からディーゼル機関車へ
溶銑搬送を担う構内鉄道の牽引機関車は、蒸気機関車からディーゼル機関車へ転換が進んだ。昭和27年(1952年)の燃料規制撤廃で石油の入手が容易になり、流体変速機(トルクコンバータ)を使用した流体式ディーゼル機関車が開発されたことで、列車の発進が容易となった (1)。製鉄所構内ではポイント操作が多く列車の発停が頻繁であるため、クラッチを使う機械式は非常に煩わしかった。
昭和28年(1953年)3月を最後に蒸気機関車は製鉄業に1台も納入されていない (1)。昭和40年(1965年)までに全製鉄所でディーゼル機関車への切り替えが完了した。転換の理由は、運転要員の削減、燃料費の低減、法定整備費の低廉、煤煙の排除である (1)。
7.2 リモコン運転と合理化
八幡製鉄所では約150台の機関車が稼働し、3直3交代で1,800名の運転手が必要であった (1)。リモコン運転装置の導入により4直3交代の600名で運用可能となり、実に1,200名の要員を合理化できた (1)。リモコン操作盤には安全装置が備わり、操作盤が大きく傾くと機関車が自動停止する仕組みとなっている (1)。
7.3 くろがね線
八幡から戸畑まで市街地を通る「くろがね線」(旧・炭滓線)は、昭和5年(1930年)に敷設された溶銑・溶滓の専用鉄道である (1)。当初は八幡-戸畑間の海上輸送で溶銑を運んでいたが、危険性・不経済性から専用鉄道が建設された。架線が荷役作業の邪魔にならない電気機関車が採用され、現在も戸畑地区から八幡地区への半成品輸送に使用されている (1)。
製鉄所構内では電気機関車はほとんど使用されないが、コークス炉の消火車牽引用は例外で、限定された範囲内にトロリー線を配置しパンタグラフで集電する方式が採用されている (1)。
8 環境対策とスカル処理
8.1 排ガス・集塵
溶銑搬送に伴う排ガスには粉塵・SOx・NOxが含まれ、各製鉄所で対策が実施されている。日本製鉄は電気式集塵機とバグフィルターの2方式を併用し、活性コークス式乾式脱硫脱硝設備でSOxとNOxの同時除去を実現している (16)。ArcelorMittal Monlevade製鉄所(ブラジル)では、脱硫スタンド全体を覆う濾過面積11,270 m²のパルスジェットフィルターを導入した事例がある (19)。
8.2 スカル処理
トーピードカーの運用ではスカル(炉体内壁に付着する地金・スラグの凝固物)の蓄積が問題となる。スカルが成長すると有効容量が低下し、溶銑の排出が困難になる。Dango & Dienenthal(独、1865年創業)はデスラッギングマシン(SAMシリーズ)の専門メーカーとして1966年に最初の製品を開発し、世界中の製鉄所にスカル除去設備を納入している。同社はトーピードカー本体の製造者ではなく、デスカリング・デスラッギング・タッピング等の周辺機器に特化している。
8.3 将来展望
溶銑搬送の将来は、カーボンニュートラルへの移行と密接に関わる。水素直接還元(H₂-DRI)と電気溶解炉(EAF)の組合せが普及すれば、従来の高炉→トーピードカー→転炉という搬送工程自体が不要となる可能性がある。一方で、既存の高炉を運用する製鉄所ではトーピードカーの需要が当面続くため、耐火物の長寿命化・自動運転・インテリジェント搬送(大連華鋭の無人走行型)が技術開発の焦点となっている。
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