牽引式モジュラートレーラー
Goldhofer THP・Scheuerle InterCombi の技術と国内運用
1 はじめに — SPMTとの違い
重量物搬送に用いるモジュラー車両は、大きく「自走式(Self-Propelled)」と「牽引式(Towed)」に分類される。自走式の代表がSPMT(Self-Propelled Modular Transporter)であり、各モジュールにパワーパックと油圧駆動軸を内蔵して自力走行する。一方、牽引式モジュラートレーラーは駆動機構を持たず、トラクタ(prime mover)が牽引する構造である。
SPMTは横行・斜行・スピンターンなど多自由度の走行が可能であり、構内搬送や精密な位置合わせに優れる。牽引式トレーラーは構造が単純で軽量なため、公道走行を伴う長距離輸送に適し、軸荷重制限や橋梁通過の制約下で最大積載量を確保しやすい。両者は相互排他ではなく、案件の特性に応じて使い分けられる。本記事で扱うSPMTとの最も本質的な違いは、駆動機構の有無と、それに起因する運用特性の差異にある。
本記事では、牽引式モジュラートレーラーの2大メーカー——Goldhofer(ドイツ)のTHPファミリーとTII Group傘下Scheuerle(ドイツ)のInterCombiファミリー——の技術仕様を比較し、国内の流通チャネルと主要運用事業者を概説する。
2 2大メーカーの製品体系
2.1 Goldhofer THP ファミリー
Goldhofer AG(ドイツ、メミンゲン)は、牽引式モジュラーをTHP(Transportable Heavy Platform)の名称で展開している (1)。現行ラインナップは以下のとおりである。
| モデル | 位置づけ | 軸荷重 | 自重(4軸) |
|---|---|---|---|
| THP/SL | スタンダード | 45 t(1 km/h) | 13.85 t |
| THP/SL-L | 道路輸送最適化 | 26.1 t(20 km/h) | 11.1 t |
| THP/SL-S | 軽量型 | 15.6〜23 t | 9.6〜10.2 t |
| FT SERIES | プレミアム新シリーズ | — | — |
THP/SLはGoldhoferが「the original」と位置付けるスタンダードモデルである (2)。主要仕様を以下にまとめる。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 軸数 | 2〜8軸構成 |
| 軸間距離 | 1,500 mm / 1,800 mm |
| 車両幅 | 3,000 mm |
| 最大操舵角 | ±55° |
| 軸補償ストローク | 600 mm |
| タイヤ | ツインタイヤ 215/75 R 17.5 |
| デッキ長さ | 3,000〜13,000 mm |
| デッキ高さ | 250〜650 mm(種類による) |
車両幅は3,000 mmで、フラットベッド・ベッセル(船舶)・エクスカベーター等の複数のデッキ種類に対応する。連結方式にはスイベルアーム(単幅結合)、センター牽引装置(並列結合)、ドローバー(2/3/5 m)、グースネック(35/45/52 t容量)があり、案件の構成に応じて選択する (2)。
THP/SL-Lは自重と曲げモーメントのバランスを最適化した道路輸送向けモデルで、20 km/h走行時の軸荷重26.1 tで道路輸送の規制下での最大積載を実現する (3)。100〜600 tのターンテーブルとの組合せにより、大型構造物の旋回搬送が可能となる。
THPモジュールにPowerPackと駆動軸を装着することで、自走式のPST(Power Split Transport)に変換できる点はGoldhoferの特徴である (4)。牽引式と自走式を同一のモジュール基盤で使い分けられるため、保有機材の運用柔軟性が高い。
2.2 TII Group / Scheuerle InterCombi ファミリー
Scheuerleは、TII Group(Transporter Industry International、Otto Rettenmaier家所有)傘下のブランドである (5)。TII Groupは1988年にScheuerleを取得後、Nicolas(1995年)、Kamag(2004年)を順次統合し、世界最大の重量物輸送車両メーカーグループを形成した (5)。
| ブランド | 設立年 | 主要分野 |
|---|---|---|
| Scheuerle | 1869年 | 重量物輸送(オン/オフロード) |
| Nicolas | 1855年 | 重量物トランスポーター(ペンダム軸発明) |
| Kamag | 1969年 | 産業・ヤードロジスティクス |
Scheuerleは1949年に近代的ローベッドトレーラーの概念を発明したとされ、1983年にはSPMTを市場投入して業界標準を確立した (5)。
InterCombiは2〜6軸構成の牽引式モジュラートレーラーで、軸荷重36〜45 t(速度・構成条件により変動)、最大操舵角60°、最大走行速度80 km/hの仕様を持つ (6)。縦方向・横方向の連結が可能であり、輸送幅は4,500〜12,000 mmまで構成できる (6)。
InterCombi SPEは、既存のInterCombiモジュールにPPU(Power Pack Unit)を追加して自走化する拡張製品で、軸荷重45 t/軸線、全輪操舵(斜め走行・円旋回対応)が可能となる (7)。GoldhoferのTHP→PST変換と同様、牽引式と自走式を同一基盤で使い分ける設計思想である。
2.3 2社比較
| 項目 | Goldhofer THP/SL | Scheuerle InterCombi |
|---|---|---|
| 軸荷重(最大) | 45 t(1 km/h) | 36〜45 t |
| 軸間距離 | 1,500 / 1,800 mm | 1,500 mm |
| 車両幅 | 3,000 mm | 3,000〜12,000 mm |
| 最大操舵角 | ±55° | 60° |
| 軸数 | 2〜8 | 2〜6 |
| 自走化 | PST変換(PowerPack追加) | InterCombi SPE(PPU追加) |
| 道路走行速度 | — | 最大80 km/h |
両社とも車両幅3,000 mm・軸間距離1,500 mmを基本とし、機械式操舵による牽引走行という点では共通する。違いは、Goldhoferが軸数8軸まで対応する一方、Scheuerleは最大走行速度80 km/hを公称する点、またScheuerleが横方向連結による大幅員構成(最大12,000 mm)に対応する点にある。
両社に共通する設計思想として、牽引式モジュールに駆動ユニットを後付けして自走式に変換できる点が挙げられる。Goldhoferではこの変換をTHP→PST、ScheuerleではInterCombi→InterCombi SPEと呼ぶ。この互換性により、事業者は牽引式と自走式を同一の車両基盤で使い分けることができ、保有機材の稼働率向上と投資効率の最適化が図れる。
なお、両社の軸荷重は速度条件によって大きく変動する。Goldhofer THP/SLは1 km/h時に45 tだが、THP/SL-Lでは20 km/h時に26.1 tとなる。Scheuerle InterCombiについても36 tと45 tの記載差異があり、これは速度条件・構成条件の違いに起因すると考えられる。軸荷重の比較には速度条件を明示する必要がある。
3 国内流通チャネル
3.1 Goldhofer — 伊藤忠TC建機
伊藤忠TC建機株式会社(伊藤忠商事・東京センチュリー合弁)が、Goldhofer AG製品の日本国内における正規輸入販売代理店を務める (8)。THP(牽引式モジュラートレーラー)、PST(自走式多軸台車)、セミトレーラー(超低床ドロップデッキ)の3カテゴリを取り扱い、風力発電設備やバイオマス発電設備等の超大型・重量物輸送向けに車両提案を行っている (8)。
3.2 Scheuerle — コーレンス
コーレンス株式会社が、Scheuerle社製SPMTの日本国内輸入・販売を行う (9)。6軸構成で最大約360 t、連結により1,000 t級以上の搬送が可能である。風力部材輸送用SPMTへの引き合いが増加中であり、港湾荷役企業・重量物運搬企業をターゲットに販売を展開している (9)。牽引式InterCombiの販売状況については公開情報からは確認できなかった。
3.3 COMETTO — NXエンジニアリングが採用
GoldhoferとScheuerle以外にも、イタリアCOMETTO社のトランスポーターが国内で運用されている。NXエンジニアリング(旧日本通運重量品事業部)は洋上風力建設工事においてCOMETTO社製の6軸・12軸・18軸トランスポーターを使用しており (10)、国内市場がGoldhofer/Scheuerleの二大メーカーに限定されないことを示している。
4 主要運用事業者
4.1 DENZAI グループ
1972年に北海道室蘭市で株式会社電材重機として創業したDENZAI(電材)グループは、国内11社・海外14社のグループ体制で重量物搬送事業を展開する (11)。SPMT・モジュラートレーラーを多数保有し、2020年には連結売上高100億円を達成した。2024年には2,500 tクローラークレーン(国内最大級)を導入し、洋上風車の巨大化に対応した体制を構築している。
主要実績として、橋梁架設・撤去(塩ノ奥大橋(岡山県)、成田空港塩本橋(千葉県))、発電所機器搬送、風力部材輸送がある。3Dポイントクラウドデータを用いたルート最適化計画を採用し、デジタル技術を活用した搬送計画の高度化にも取り組んでいる (11)。海外展開も積極的で、2019年には日本企業初の台湾洋上風力発電事業に参画した。
4.2 松浦重機
佐賀県唐津市に本社を置く松浦重機は、Goldhofer製品を体系的に保有する国内有数のGoldhoferユーザーである (12,13)。2024年7月には株式会社松浦重機東北と合併し、九州・山陽・山陰・東北にまたがる営業範囲を形成した。
保有するGoldhofer機材は以下のとおりである。
- PST/SL-E 9: 2台 + PFV490 PowerPack。最大ステアリング角度±135°、油圧-機械式デュアルシステム全軸操舵 (12)
- THP/SL + RA3(シュナーベル式): 最大積載量92.9 t(タワー輸送時)、保有THPとの組合せで最大荷台長35,450 mm (13)
- ターンテーブル: 200 t × 2台、100 t × 1台
- FTV500 ブレード起立輸送装置: 2台 — 山間部など狭隘ルートでの風力ブレード輸送を実現
RA3はシュナーベル(Schnabel)式と呼ばれる船型デッキで、円筒形の構造物(風車タワー等)を内径2,400〜5,400 mmの範囲で抱え込むように搭載できる (13)。ベッセルデッキの標準長8,000 mm(最大20,000 mmまで伸長可能)、標準幅2,990 mm(最大4,690 mmまで拡幅可能)という仕様は、風力発電タワーの搬送に最適化されている。
4.3 NXエンジニアリング
旧日本通運の重量品輸送・建設部門が分社化した同社は、火力・原子力・水力発電所の機器搬入を主力とし、最大3,000 tモジュールの輸送実績を持つ。
洋上風力分野では、北海道石狩湾新港の洋上風力発電所建設工事(国内最大8 MW風車×14基)においてCOMETTO社製トランスポーターを使用した (10)。この工事では以下の3種類の構成が用いられた。
| 部材 | トランスポーター構成 |
|---|---|
| タワー | 6軸+伸縮フレーム+6軸 |
| ブレード | 12軸+伸縮フレーム+12軸 |
| ナセル | 18軸×1列編成 |
岸壁での荷受け→港内搬送→仮置き→タワー・ナセルのプレアッセンブル→SEP船搭載→洋上組立という一連の工程を一貫で実施した (10)。GoldhoferでもScheuerleでもなくCOMETTO社製を採用した背景は公開情報からは確認できないが、COMETTO社がEco1000等の構内搬送用自走式トランスポーターも展開していることから、同社との包括的な取引関係が推察される。
5 洋上風力発電と需要拡大
5.1 基地港湾でのモジュラートレーラー需要
日本政府が掲げる2030年代の洋上風力発電導入目標に伴い、風車部材(タワー・ナセル・ブレード)の大型化・重量化が進んでいる。これにより、基地港湾での部材ハンドリングにモジュラートレーラーやSPMTの需要が高まっている (9)。コーレンスによれば、従来は重量物搬送に関わらなかった港湾荷役企業からもSPMT導入の引き合いが出始めているという (9)。
風車部材の輸送は、海上輸送で基地港湾に到着した部材を岸壁で荷受けし、港内でトランスポーターにより仮置場に搬送し、プレアッセンブル(タワーとナセルの事前組立)を行った後、SEP船(自己昇降式作業船)に搭載して洋上に運ぶという流れで行われる (10)。この一連の工程でモジュラートレーラーとSPMTの両方が活用される。
5.2 ブレード輸送の技術革新
松浦重機のFTV500ブレード起立輸送装置に見られるように、全長70 mを超えるブレードを起立させて狭隘道路を通過させる技術も開発が進んでおり、陸上輸送の制約緩和に寄与している (13)。従来到達不可能であった山間部の風力発電サイトへのブレード搬入が可能になり、陸上風力発電の立地選択肢を広げている。
5.3 主要事業者の対応
| 事業者 | 保有機材 | 風力関連の動き |
|---|---|---|
| DENZAI | SPMT・モジュラートレーラー多数 | 台湾洋上風力参画、2,500 tクレーン導入 |
| 松浦重機 | Goldhofer PST/SL-E・THP/SL | FTV500ブレード起立装置×2台 |
| NXエンジニアリング | COMETTO社製トランスポーター | 石狩湾8 MW×14基建設 |
| コーレンス | Scheuerle SPMT(販売) | 風力向けSPMT引き合い増加中 |
6 特殊車両通行許可制度
モジュラートレーラーは総重量・車両長・車幅のいずれにおいても道路法に基づく一般的制限値を大幅に超過するため、公道走行には特殊車両通行許可が必須である (14,15)。
| 項目 | 一般的制限値 | モジュラートレーラー |
|---|---|---|
| 幅 | 2.5 m | 3.0 m以上 |
| 長さ | 12 m | 数十m(連結時) |
| 高さ | 3.8 m | 積荷による |
| 総重量 | 20 t | 数百〜数千t |
| 軸重 | 10 t | 36〜45 t/軸 |
許可申請から取得まで数週間から数か月を要し、通行経路上の橋梁・トンネル等の構造物耐荷重を個別に確認する必要がある (14)。許可には通行時間帯制限(深夜帯限定等)や誘導車配置等の条件が付されるのが一般的であり、運用計画の立案段階から許可取得のリードタイムを考慮することが不可欠である。
この制度的制約は、構内搬送のみで完結するSPMTとの運用上の重要な差異でもある。SPMTは構内走行が主であるため通行許可が不要な場合が多いが、牽引式トレーラーは公道走行を前提とする以上、制度への対応が運用コストと計画期間に直接影響する。Goldhofer THP/SL-Sのような軽量モデルが存在するのは、軸荷重制限下での通行可能性を確保するためでもある。
7 公開情報の限界
以下の情報は公開情報からの確認ができていない。
- Scheuerle InterCombiの自重データ(製品データシートが非公開)
- 国内におけるGoldhofer THP / Scheuerle InterCombiの保有台数・導入時期
- コーレンスの牽引式InterCombi販売実績(SPMT販売は確認済み)
- 備南開発(岡山県)が保有するSPMTのメーカー(Goldhofer / Scheuerle / COMETTO等の特定不能)
- 特殊車両通行許可のモジュラートレーラー固有の運用実態(許可条件の実例)
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