Vega C
欧州小型衛星打上げロケット
1 概要
Vega Cは、ESA/Avio社が開発した欧州の小型衛星打上げロケットであり、Vegaの改良型である。
基本情報: - 製造: Avio（イタリア） - 運用: Avio（2025年-、旧Arianespace） - 初打上げ: 2022年7月13日（VV21） - 状態: 運用中 - ペイロード能力（SSO）: 2,300 kg（700km） - ペイロード能力（LEO）: 3,300 kg
技術的特徴: - 🔧 P120C固体ブースター（Ariane 6と共通化） - 📈 ペイロード53%向上（Vega比+800kg） - 🛠️ VV22失敗から復帰（Zefiro-40ノズル再設計、2024年12月VV25成功） - 🇪🇺 欧州小型衛星打上げ独立能力
市場ポジション: 欧州唯一の小型専用ロケット、Vega（2024年9月退役）の後継
2 Avio SpA・ESAの歴史
2.1 Avio SpA設立と宇宙事業
1908年: Fiat Aviazione設立（前身）(1) 2013年: Avio SpA設立（BPE Private Equity傘下で独立） 本社: Colleferro、イタリア・ローマ近郊 事業領域: 固体ロケットモーター、液体エンジン、宇宙推進システム
主要製品: - P120C固体ロケットモーター（Vega-C/Ariane 6共通） - Zefiro固体モーター（Vega-C第2・第3段） - M10メタンエンジン（Vega-E開発中）
2.2 ESAとの協力体制
ESA: 欧州宇宙機関（European Space Agency） 関係: Vega-CはESA資金で開発、Avioが製造・運用
| 役割 | 機関 |
|---|---|
| 開発資金提供 | ESA |
| 製造 | Avio SpA |
| 商業運用 | Avio（2025年～、旧Arianespace） |
3 Vega進化の系譜
3.1 Vegaファミリー比較
| ロケット | 初打上げ | SSO能力 | 第1段 | 第4段 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| Vega | 2012年 | 1,500 kg | P80（88 t） | AVUM | 2024年9月退役 |
| Vega-C | 2022年 | 2,300 kg | P120C（143 t） | AVUM+ | 運用中 |
| Vega-E | 2026年目標 | 3,000 kg | P120C | M10メタン | 開発中 |
進化の方向性: - Vega → Vega-C: 固体モーター大型化（P80→P120C、+62%推進剤） - Vega-C → Vega-E: 第3・第4段をM10メタン上段に置換（3段構成化）
4 基本仕様
4.1 寸法・質量
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 全高 | 34.8 m |
| 最大直径 | 3.3 m（フェアリング） |
| 打上げ時質量 | 約210,000 kg（210 ton） |
| 段数 | 4段（全て固体） |
比較: Vega（全高30m）より約5m高い
4.2 ペイロード能力
| 軌道 | ペイロード質量 | Vega比 |
|---|---|---|
| LEO（400km） | 3,300 kg | +800kg（+32%） |
| SSO（700km） | 2,300 kg | +800kg（+53%） |
主要軌道: SSO（太陽同期軌道）700km、傾斜角90度
5 推進システム（全段固体）
5.1 第1段: P120C
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 名称 | P120C（Common） |
| 製造 | Avio（Colleferro、イタリア） |
| 全長 | 13.5 m |
| 直径 | 3.4 m |
| 推進剤質量 | 143,000 kg（143 ton） |
| 推進剤 | HTPB複合固体推進剤 |
| 推力 | 4,500 kN（平均） |
| 燃焼時間 | 約146秒（2分26秒） |
P120C共通化: Ariane 6のブースターと同一設計
Vega P80比較: - P80推進剤質量: 88,000kg - P120C推進剤質量: 143,000kg（+62%）
5.2 第2段: Zefiro-40
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 名称 | Zefiro-40 |
| 推進剤質量 | 36,000 kg |
| 推進剤 | HTPB固体 |
| 推力 | 1,196 kN |
| 燃焼時間 | 約107秒 |
VV22失敗: 2022年12月21日、Zefiro-40ノズル故障により失敗 再設計: ノズル熱防護システム改良、2024年12月5日VV25で成功
5.3 第3段: Zefiro-9
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 名称 | Zefiro-9（Vegaから継承） |
| 推進剤質量 | 11,000 kg |
| 推力 | 300 kN |
5.4 第4段: AVUM+
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 名称 | AVUM+（Attitude and Vernier Upper Module Plus） |
| エンジン | RD-843（ウクライナ製） |
| 推進剤 | UDMH/N₂O₄（有毒、液体） |
| 推力 | 2.45 kN（小推力） |
| 再点火能力 | 最大5回 |
AVUM+改良: VegaのAVUMから推進剤タンク容量増（+500kg）
6 P120C開発プログラム
6.1 P120C開発タイムライン（2014-2022年）
2014年11月: ESA閣僚理事会でP120C SRM開発決定 (2) 目的: Ariane 6ブースター + Vega-C第1段の共通固体ロケットモーター
| 年 | マイルストーン |
|---|---|
| 2014年11月 | ESA閣僚理事会で開発決定 |
| 2015年中旬 | CDR（Critical Design Review）、2構成開発決定 |
| 2017年 | 仏領ギアナで初の不活性推進剤充填完了（142トン） |
| 2018年7月 | DM（Development Model）静的燃焼試験成功 |
| 2018年11月 | CDR完了 |
| 2019年1月 | QM1（Qualification Model 1）燃焼試験成功 |
| 2019年10月 | Vega-C向け飛行認定完了 |
| 2020年10月 | QM2高性能構成燃焼試験成功 |
| 2021年12月 | Ariane 6向け認定完了 |
| 2022年7月13日 | Vega-C初飛行でP120C成功 |
6.2 P120C技術仕様
世界記録: 2022年7月時点で世界最大・最強の単一固体ロケットモーター (3)
製造: - Europropulsion: Avio/ArianeGroup 50-50合弁会社 - ケース製造: イタリア（Avio）→ 仏領ギアナ輸送 - 推進剤充填: 仏領ギアナ
2構成: | 構成 | MEOP（最大動作圧力） | 燃焼時間 | 用途 | |:—–|:——————–|:——–|:—–| | 標準構成 | 105 bar | 約146秒 | Vega-C第1段、Ariane 6ブースター | | 高性能構成 | 110 bar | 短縮 | 特殊ミッション対応 |
7 製造施設
7.1 Colleferro工場（イタリア）
所在地: Colleferro、ローマ近郊、イタリア 運営: Avio SpA
製造品目: - Zefiro-40（第2段） - Zefiro-9（第3段） - AVUM+（第4段） - P120Cケース部品
7.2 Kourou統合施設（仏領ギアナ）
所在地: Centre Spatial Guyanais、Kourou、仏領ギアナ 施設: ELV射点（Ensemble de Lancement Vega）
作業内容: - P120C推進剤充填（142トン） - 全段統合・組立 - 射前試験
8 運用実績
8.1 総合統計（2025年時点）
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 総打上げ回数 | 3回（VV21、VV22、VV25） |
| 成功 | 2回 |
| 失敗 | 1回（VV22、Zefiro-40ノズル） |
| 成功率 | 66.7% |
注: VV22失敗は設計欠陥、再設計後VV25で成功
8.2 主要マイルストーン
| 日付 | ミッション | 結果 | 意義 |
|---|---|---|---|
| 2022年7月13日 | VV21 | 成功 | Vega C初打上げ成功 |
| 2022年12月21日 | VV22 | 失敗 | Zefiro-40ノズル故障 |
| 2024年12月5日 | VV25 | 成功 | 再設計後の復帰成功 |
9 VV22失敗と復旧
9.1 VV22飛行失敗（2022年12月20日）
飛行情報 (4): - 日時: 2022年12月20日 22:47 現地時間（仏領ギアナ） - ミッション: Pléiades Neo 5/6（Airbus Defence and Space地球観測衛星） - ペイロード価値: 数億ユーロ
故障経過: - 離昇後151秒: 燃焼室圧力の段階的低下検出 - 原因: Zefiro-40ノズルの段階的劣化 - 結果: ミッション完全喪失
9.2 第1回調査結果（2023年3月）
独立調査委員会結論 (5):
根本原因: カーボン-カーボン（C-C）喉部インサートの予想外の熱機械的過剰侵食 - C-C材料: ウクライナでAvioが調達 - 欠陥: 材料均質性の欠陥が原因と推定
暫定対策: - 代替C-C材料: ArianeGroup製造の別のC-C材料に変更 - 実績: VegaのZefiro-23およびZefiro-9ノズルで既に使用中
9.3 第2回失敗（2023年6月28日）- 静的燃焼試験
試験情報: - 日時: 2023年6月28日 - 場所: Salto di Quirra試験場、イタリア・サルデーニャ島 - 対象: 改良Zefiro-40エンジン静的燃焼試験 - 結果: ノズル重大損傷
9.4 第2回調査結果（2023年10月）
独立調査委員会結論 (6):
根本原因: C-C喉部インサートの形状と新材料の熱機械特性の組み合わせ - メカニズム: ノズル隣接部品の段階的損傷 - VV22との関連: VV22で観察された現象とは異なる独立の問題
必要対策: 1. Zefiro-40ノズル設計の抜本的改良 2. 数値モデルの較正と挙動予測 3. 2回の追加燃焼試験による性能検証
復帰目標: 2024年第4四半期
9.5 復帰成功（2024年12月5日）- VV25
飛行情報: - 日時: 2024年12月5日 - ミッション: VV25 - 結果: 完全成功 - 意義: ノズル再設計後の復帰成功、Vega-C運用再開
再設計完了: 約2年間の設計改良・試験を経て運用復帰達成
10 運用射場
10.1 Guiana ELV
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 所在地 | Guiana Space Centre、ELV射点 |
| 運用開始 | 2022年（Vega C） |
| 年間打上げ | 3-5回（目標） |
詳細: Guiana Space Centre 記事参照
11 コスト・価格分析
11.1 打上げ価格
Vega-C商業価格 (7): - 価格: €32M（約3,200万ユーロ） - Vega価格と同額: Vega-Cはペイロード能力+53%でもVegaと同価格
価格内訳（推定）: - ロケット製造コスト: €25M - Arianespace運用・マーケティング: €7M - 前提: 年間打上げ頻度2回
11.2 契約実績
長期供給契約（2021年3月）(8): - Arianespace-Avio契約: 追加10基のVega-C供給契約 - 納入時期: 2023年～
打上げサービス契約（2021-2022年）(9): | 顧客 | 衛星 | 打上げ予定 | |:—–|:—–|:———-| | Italian Space Agency | Platino 1、Platino 2 | 2022-2024年 | | CNES/ESA | Microcarb、NESS | ~2025年 | | ESA | Flex、Altius | ~2025年 |
11.3 商業化移行
2024年8月: ESA、Avioに直接商業化権限付与決定 (10) - 移行期間: 2025年末完了予定 - 目的: Avioが非政府顧客を直接開拓
12 P120C共通化戦略
P120C: Ariane 6固体ブースターとVega C第1段の共通モーター
共通化の利点: - 製造コスト削減（量産効果） - 開発リスク分散 - サプライチェーン効率化
使用形態: - Ariane 6: 0-4基のブースター - Vega C: 1基の第1段
共通化効果: | 項目 | 効果 | |:—–|:—–| | 年間生産数 | Vega-C 2-3基 + Ariane 6 4-12基 = 6-15基 | | コスト削減 | 量産効果による単価低減 |
13 市場ポジション・競合分析
13.1 小型衛星打上げ市場での位置づけ
Vega-Cの市場セグメント: 2.3トン SSOクラス小型衛星打上げ
| ロケット | 国 | SSO能力 | 価格 | 再使用 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| Vega-C | 欧州 | 2.3 t | €32M | ❌ | 運用中 |
| Electron | 米国/NZ | 0.3 t | $7.5M | ✅（開発中） | 運用中 |
| Firefly Alpha | 米国 | 1.0 t | $15M | ❌ | 運用中 |
| Nuri | 韓国 | 1.5 t | $80M | ❌ | 運用中 |
| Rocket 4 | 日本 | 1.3 t | 未発表 | ❌ | 開発中 |
Vega-Cの強み: - 欧州独立打上げ能力: EU域内唯一の小型専用ロケット - 高ペイロード能力: 2.3トン（Electron 0.3トンの7.7倍） - SSO専門性: 地球観測衛星市場に最適
課題: - VV22失敗の信頼性影響: 約2年運用停止 - 価格競争力: 米国競合より高価（Firefly Alpha $15Mの2倍以上）
14 Vega-E将来発展
14.1 Vega-E概要
Vega-E（Vega Evolution）は、Vega-Cの次世代進化型である (11)。
主要変更: - 段数: 4段 → 3段（第3・第4段を統合） - 新上段: M10メタンエンジン搭載極低温上段
| 項目 | Vega-C | Vega-E |
|---|---|---|
| 初打上げ | 2022年 | 2026年目標 |
| LEO能力 | 3.3 t | 3.0 t |
| 段数 | 4段 | 3段 |
| 第1段 | P120C | P120C（継承） |
| 上段 | Zefiro-9 + AVUM+ | M10メタン |
| 価格 | €32M | €32M（同額目標） |
14.2 M10メタンエンジン
M10エンジン仕様 (12): - 推力クラス: 10トン級 - 推進剤: 液体酸素/メタン（LOX/CH₄） - エンジンサイクル: エキスパンダーサイクル - 再点火能力: 複数回（ミッション柔軟性向上）
開発状況: - 2022年5月6日: M10エンジン初燃焼試験成功 - 2024-2025年: 地上認定試験継続中 - 目標: 2026年以降飛行実証
Avio戦略的意義: 欧州初の宇宙用メタンエンジン技術確立、世界的メタンエンジンプレイヤー
15 将来展望
15.1 打上げ頻度向上
現状: VV22失敗により運用停滞 目標: 年間3-5回の安定運用
15.2 Vega完全代替
Vega退役: 2024年9月4日（VV24最終飛行） Vega C: 欧州唯一の小型ロケット