ヴァンデンバーグ宇宙軍基地
Vandenberg Space Force Base (VSFB)
1 概要
ヴァンデンバーグ宇宙軍基地（Vandenberg Space Force Base, VSFB）は、カリフォルニア州サンタバーバラ郡に位置する米国西海岸唯一の軌道打上げ射場であり、極軌道・太陽同期軌道打上げに特化した戦略的拠点である (1,2)。
施設概要:
- 所在地: カリフォルニア州サンタバーバラ郡Point Arguello
- 管理組織: 米国宇宙軍Space Launch Delta 30
- 設立: 1941年（Camp Cooke）、1958年Vandenberg AFBへ改称
- 面積: 約99,000エーカー（約400 km²）
- 初打上げ: 1958年12月16日（Thor IRBM）
戦略的優位性:
- 地理的位置（西海岸、南向き打上げで極軌道最適）
- 米国軍事偵察衛星の主力打上げ拠点
- Western Range管轄（米国西海岸宇宙打上げ全般）
- 広大な射場面積（機密ミッション対応）
- 低い航空・海上交通密度
運用実績:
2 歴史
2.1 Camp Cooke時代（1941-1958年）
陸軍訓練基地としての設立
1941年9月、第二次世界大戦の勃発を受けて、米国陸軍はカリフォルニア州サンタバーバラ郡に大規模訓練基地の建設を開始した (6,7)。
設立経緯 (7):
- 1941年3月: カリフォルニア州中部海岸地域への軍事施設建設計画発表
- 1941年9月: 建設開始（未完成のまま運用開始）
- 1941年10月5日: Camp Cooke正式稼働
- 命名: フィリップ・セント・ジョージ・クック将軍（騎兵隊士官）に因む
地理的優位性:
- 広大な土地（約400 km²）
- 温暖な気候
- 太平洋に面した立地
- 人口密集地から離れた立地
1950年代：ICBM時代への転換
1956年、米国空軍は大陸間弾道ミサイル（ICBM）試験場として、全米200以上の候補地からCamp Cookeを選定した (6)。
選定理由:
- 広大な面積（複数のICBM射点建設可能）
- 西海岸立地（太平洋上空へ試射可能）
- 温暖な気候（年間運用日数多）
- 既存のインフラ（Camp Cooke施設を転用可能）
1958年10月4日: Vandenberg AFBへ改称 (8):
- General Hoyt S. Vandenberg（1899-1954年）に因む
- 第2代米国空軍参謀総長（1948-1953年）
- 第2代中央情報局長官（1946-1947年）
2.2 ICBM試験時代（1958-1970年代）
初打上げ：1958年12月16日
1958年12月16日、Vandenberg AFBから初のミサイル試験打上げが実施された (3)。
初打上げ諸元:
- ミサイル: Thor IRBM（中距離弾道ミサイル）
- 日時: 1958年12月16日
- Vandenberg AFB改称から73日後
Atlas ICBM試験プログラム
Atlas-D ICBM運用開始 (3):
- 1958年10月16日: 初のAtlas発射機受領（576A-1）
- 1959年2月: 初のAtlas-D ICBM到着
- 1959年9月9日: 初のAtlas-D試験打上げ
- 1959年10月: Atlas-D、米国初のICBM警戒態勢配備
戦略的意義:
Atlas-DのVandenberg配備は、米国が大陸間核攻撃能力を獲得した歴史的瞬間であり、冷戦時代の戦略核抑止力の基盤となった。
Titan ICBM試験プログラム
Titan I開発 (3):
- 1958年7月31日: Operational System Test Facility建設開始
- 1963年4月: 初の地下サイロからのTitan II打上げ成功
- 1965年3月: 初の完全運用試験成功
Titan II実績:
Titan IIは、Vandenbergにおいて数十回の試験打上げを実施し、米国の戦略核戦力の中核を担った。
2.3 偵察衛星時代（1960-1980年代）
Corona偵察衛星プログラム（1960-1972年）
- 運用期間: 1959年6月～1972年5月
- 主管: 中央情報局（CIA）、米国空軍
- 打上げ地点: Vandenberg AFB（Thor-Agenaロケット）
- 総打上げ数: 145機
- 目的: ソ連・中国の軍事施設偵察
Discovererカバープログラム (11):
Coronaプログラムは極秘であったため、公には「Discoverer」という科学衛星実験として発表された。
主要マイルストーン (11):
| 日時 | ミッション | 内容 |
|---|---|---|
| 1960年8月11日 | Discoverer 13 | 初の軌道からのカプセル回収成功 |
| 1960年8月18日 | Discoverer 14 | 初の空中回収成功、ソ連領160万平方マイル撮影 |
戦略的影響:
Coronaプログラムは、U-2偵察機よりも広範囲の情報を提供し、1971年の戦略兵器制限交渉（SALT）における検証可能な条件設定を可能にした (9)。
KH-11 Keyhole偵察衛星（1976年～）
KH-11概要 (12):
- 初打上げ: 1976年12月（Vandenberg AFB、Titan 3D）
- 特徴: 米国初の電子光学デジタル撮像衛星
- リアルタイム光学観測能力
- 総打上げ数: 17機（1976年～）
技術革新:
KH-11は、フィルム回収方式から脱却し、デジタル画像をリアルタイムで中継衛星経由で送信する画期的なシステムであり、現在も運用が継続されている。
2.4 Space Shuttle計画と中止（1979-1989年）
SLC-6 Space Shuttle改修（1979-1986年）
- 1979年1月: SLC-6の Space Shuttle対応改修開始
- 総建設費: 推定40億ドル
- 1985年10月15日: SLC-6運用可能宣言
計画された初ミッション (13):
- ミッション名: STS-62-A
- 打上げ予定日: 1986年10月15日
- シャトル: Discovery
- 船長: Robert Crippen（ベテラン宇宙飛行士）
- 特徴: 極軌道への初の有人打上げ
1986年Challenger事故と計画中止
1986年1月28日: Challenger事故 (13):
Challenger事故により、Space Shuttleプログラム全体が2年間停止した。
1986年7月31日: SLC-6 Space Shuttleプログラム「運用待機状態」へ (13):
Edward C. Aldridge, Jr.空軍長官が、Vandenberg Space Shuttleプログラムを「運用待機状態」に移行すると発表。
1988年5月13日: 最終中止 (13):
Aldridge空軍長官が、Vandenberg Space Shuttle施設をKennedy Space Centerへ移転するよう指示（1989年9月30日までに完了）。
中止理由 (13):
1986年6月の上院報告書は、「Challenger事故が公的な理由とされているが、主たる理由は射点施設の試験・改修の必要性である」と結論付けた。具体的には：
- 機体着氷問題
- 爆風保護の不足
- 汚染廃水管理問題
結果:
VandenbergからSpace Shuttleが打上げられることは一度もなかった。
2.5 商業化時代（1990-2012年）
Delta II時代（1995-2018年）
Delta II Western Range運用開始 (15):
- 1995年: SLC-2へのDelta II対応改修（Mobile Service Tower 10フィート延伸）
- 1996年2月: Vandenberg初のDelta II打上げ
- 運用期間: 1995-2018年
- 総打上げ数: 45回
主要ミッション:
- Iridiumコンステレーション: 60機（1998-2002年、12回の打上げ）
- 地球観測衛星（Google Earth画像提供含む）
- 国際顧客（カナダ、イタリア、フランス、アルゼンチン）
最終ミッション: 2018年9月12日（ICESat-2）
Atlas V/Delta IV Heavy時代（1999-2022年）
SLC-6商業転用 (16):
- 1999年9月1日: Boeing、SLC-6をDelta IV対応にリース
- 2006年6月27日: 初のDelta IV打上げ（NROL-22）
- 運用期間: 2006-2022年
- 総打上げ数: 10回
2.6 SpaceX時代（2013年～）
SLC-4E改修とFalcon 9運用開始（2011-2013年）
SLC-4E改修 (17):
- 2011年初頭: 24ヶ月の改修プログラム開始
- 2011年夏: 固定・移動サービスタワー解体
- 2013年完成
2013年9月29日: 初のFalcon 9打上げ (17):
- ミッション: CASSIOPE
- ロケット: Falcon 9 v1.1（初打上げ）
- 特徴: 初の推進剤による第1段回収試行
打上げ頻度の急増（2021年～）
2024年: 史上最多51回打上げ (4):
Vandenbergは2024年に51回の打上げとミサイル試験を実施し、過去数十年で最多記録を達成した。
2025年以降の計画:
- SLC-6運用開始後: 年間100回打上げ目標 (5)
- SLC-4E: 年間75回
- SLC-6: 年間25回（Falcon 9）+ 5回（Falcon Heavy）
SLC-6 SpaceX契約（2023年～）
2023年4月21日: SLC-6リース契約 (18):
Space Launch Delta 30司令官Rob Long大佐が、SpaceXへのSLC-6リース許可声明に署名。
SLC-6近代化計画 (5):
- Space Shuttle/Delta IV施設の大部分を解体
- 水平統合施設（Horizontal Integration Facility）建設
- RP-1ケロシン燃料タンクファーム建設
- 2基のブースター着陸パッド建設
2025年10月: 最終環境影響評価承認 (19):
米国空軍省が最終環境影響評価書（Final EIS）を発行し、SLC-6改修を正式承認。
運用開始予定:
- 2027年: 年間25回Falcon 9 + 5回Falcon Heavy打上げ
- 100回/年（SLC-4Eと合計、Vandenberg全体）
3 施設構成
3.1 Space Launch Delta 30
組織概要 (20):
- 正式名称: Space Launch Delta 30（SLD 30）
- 所属: 米国宇宙軍Space Systems Command
- 司令部: Vandenberg Space Force Base
任務 (20):
- 米国西海岸からの全宇宙打上げ運用
- Western Rangeの運用・維持管理
- 米国空軍ICBMの試験・評価支援
- ミサイル防衛庁の試験・運用支援
組織構成:
- 30th Operations Group（打上げ運用、Western Range運用）
- 30th Mission Support Group
- 30th Medical Group
対応打上げロケット:
Atlas V、Delta IV、Pegasus、Minotaur、Falcon 9、Falcon Heavy、Alpha
3.2 Western Range
概要 (3):
Western Rangeは、米国西海岸からの宇宙打上げ全般を管理・支援するシステムである。
主要機能:
- 打上げ管制・追跡（レーダー追跡、テレメトリ）
- 安全管理・飛行停止システム
- 気象監視
- ペイロード処理施設
追跡ステーション地理的配置:
- Vandenberg AFB（カリフォルニア州）
- Santa Ynez Peak（サンタバーバラ郡）
- Anderson Peak（モントレー郡）
- Pillar Point Air Force Station（サンマテオ郡）
近代化計画 (21):
2025年6月2日、米国宇宙軍はJacobs Technology Inc.に、Patrick Space Force Base（フロリダ州）とVandenberg Space Force Base（カリフォルニア州）のEastern/Western Range近代化契約（上限40億ドル）を授与。
近代化目標:
- 自動飛行安全システム（AFSS）導入
- Plug-and-Playシステム（打上げパートナー独自アプリ使用可能）
- Combined Space Operations Center建設
- 2035年3月31日までに完了予定
3.3 運用中射点
SLC-4E（Space Launch Complex 4 East）
基本情報 (17):
- 運用者: SpaceX
- 現在のロケット: Falcon 9
- 改修完了: 2013年
- 初Falcon 9打上げ: 2013年9月29日（Falcon 9 v1.1）
歴史的運用:
| 期間 | ロケット | 総打上げ回数 |
|---|---|---|
| 1963-2005年 | Atlas-Agena、Titan IIID/34D | 68回 |
| 2013年-現在 | Falcon 9 | 多数（年間50回以上） |
主要ミッション:
- Starlink極軌道コンステレーション
- 米国政府偵察衛星（NRO等）
- NASA地球観測衛星
- 商業極軌道衛星
LZ-4（Landing Zone 4）
基本情報 (17):
- 旧称: SLC-4W
- 用途: Falcon 9第1段着陸専用
- 初着陸: 2018年10月7日
- 位置: SLC-4E隣接
機能:
Falcon 9第1段を射点近くで回収し、再使用サイクルを短縮。
SLC-2W（Space Launch Complex 2 West）
基本情報 (15):
- 運用者: Firefly Aerospace
- 現在のロケット: Alpha
- 初Alpha打上げ: 2022年10月1日
歴史的運用:
| 期間 | ロケット | 総打上げ回数 |
|---|---|---|
| 1958年- | Thor IRBM | 多数 |
| 1995-2018年 | Delta II | 45回 |
| 2022年-現在 | Alpha | 初期運用 |
Firefly Alpha拡大計画 (22):
- Vandenberg以外の打上げ地点: Wallops Flight Facility（2026年～）、Cape Canaveral SLC-20
- 欧州展開: Esrange Space Center（スウェーデン、2027年～）
SLC-6（Space Launch Complex 6 “Slick Six”）
基本情報 (13):
- 運用者: SpaceX（2023年～リース）
- 計画ロケット: Falcon 9、Falcon Heavy
- 運用開始予定: 2027年
波乱の歴史:
| 期間 | 計画 | 結果 |
|---|---|---|
| 1966-1972年 | Titan IIIM計画 | 計画中止 |
| 1979-1986年 | Space Shuttle計画 | 計画中止（Challenger事故後） |
| 1995-1999年 | Athena | 4回打上げ |
| 2006-2022年 | Delta IV、Delta IV Heavy | 10回打上げ |
| 2023年- | SpaceX（Falcon 9/Heavy） | リース契約、準備中 |
建設期間の異常: 1966年建設開始、初打上げ1995年（29年後）
SpaceX近代化計画 (5):
- 年間打上げ能力: 25回（Falcon 9）+ 5回（Falcon Heavy）
- 2基のブースター着陸パッド建設
- 2027年運用開始目標
4 環境と地域経済
4.1 環境保護プログラム
絶滅危惧種保護
Vandenberg Space Force Baseは、99,000エーカー（約400 km²）の広大な敷地内に、18種の連邦絶滅危惧種の生息地を提供している。
主要保護種:
- Western Snowy Plover（西部コチドリ） (24):
- 連邦絶滅危惧種法（Endangered Species Act）指定
- 保護措置: 3月1日～9月30日の季節的ビーチアクセス制限
- 2025年繁殖期: 20,000人以上の訪問者と交流（beach keepers、docents）
- California Red-legged Frog（カリフォルニアアカガエル） (24):
- 連邦指定絶滅危惧種
- 生息地: 基地内淡水域
- Vandenberg Monkeyflower（ヴァンデンバーグ・モンキーフラワー） (23):
- 2014年8月26日: 連邦絶滅危惧種指定
- Vandenberg固有種
保護実績:
2015年、Vandenberg Air Force Baseの30th Civil Engineer Squadronは、米国魚類野生生物局（USFWS）から2015年Military Awardを受賞した (23)。
環境影響評価（EIS）
米国空軍省は2025年10月、Vandenberg Space Force BaseにおけるSpaceX Falcon打上げプログラム変更に関する最終環境影響評価書（Final EIS）を発行した。
評価対象 (19):
- SLC-6のFalcon 9/Falcon Heavy対応改修
- Falcon 9打上げ・着陸回数増加（SLC-4E、SLC-6）
- FAA（連邦航空局）によるSpaceX運用ライセンス発行
評価項目（15カテゴリ）:
- 大気質、水質、土壌
- 騒音
- 社会経済的影響
- 生物資源（地上騒音・振動の影響）
- 文化資源（地盤振動の影響）
協力機関:
- FAA（連邦航空局）
- USCG（米国沿岸警備隊）
結論:
年間100回のFalcon 9/Falcon Heavy打上げが環境的に承認された。
海洋保護区
Vandenberg State Marine Reserve (24):
Vandenberg State Marine Reserveは、砂浜、海底、岩礁、干潟、ケルプの森、河口の生息地を保護し、絶滅危惧種Least Tern（コアジサシ）の営巣地であり、Western Snowy Ploverのカリフォルニア最大繁殖地の一つである。
4.2 地域経済への貢献
経済影響規模
現在の経済影響 (26):
- 年間経済影響: 45億ドル（Santa Barbara郡、San Luis Obispo郡）
- 雇用創出: 16,000人
基地内雇用 (26):
- 基地内従業員: 6,000人以上（軍人・民間人）
- Santa Barbara郡総雇用の約3%
将来成長目標 (26):
- 2030年までの経済影響目標: 60億ドル
- 新規雇用創出目標: 年間2,000人
- 主要産業: 専門・科学・技術サービス、建設、管理サービス
Space Vandenberg イニシアティブ
2025年州投資 (26):
カリフォルニア州は、地域連合REACHとパートナーに950万ドルを授与し、「Space Vandenberg」イニシアティブを立ち上げた。
目標:
- Central Coastの世界的宇宙経済における役割拡大
- 2030年までに2,000人以上の新規航空宇宙雇用創出
- 地域経済の変革的シフト
SpaceX経済貢献
SpaceX投資規模 (26):
2004年～2025年末までに、SpaceXの投資と運用拡大は、地域に約9億ドルの総経済生産をもたらす見込み。
雇用:
SpaceXは現在、Vandenberg Space Force Baseに400人の常駐スタッフを雇用している。
5 主要ミッション
5.1 偵察衛星ミッション
Corona偵察衛星（1960-1972年）
- 運用期間: 1960年2月28日（Discoverer 1）～1972年5月25日
- 総打上げ数: 145機
- 打上げロケット: Thor-Agena（Vandenberg AFB）
- 回収方法: フィルムカプセル大気圏再突入、空中回収
歴史的成果 (11):
- 1960年8月18日（Discoverer 14）: 初の軌道からの空中回収成功
- ソ連領160万平方マイル撮影（全U-2ミッションの合計を超える）
- 1995年: Clinton大統領による機密解除（86万枚以上の写真公開）
科学的貢献:
機密解除された画像は、古代遺跡研究、環境変化追跡に活用されている。
KH-11 Keyhole偵察衛星（1976年～）
KH-11運用実績 (12):
- 初打上げ: 1976年12月（Vandenberg AFB、Titan 3D）
- 総打上げ数: 17機（1976年～）
- 1976-1990年: 9機（Titan 3D/34D、1機失敗）
- 2000年代以降: Titan IV、Delta IV Heavy使用
技術革新:
KH-11は、フィルム回収方式からデジタル画像リアルタイム送信への移行を実現し、現在も運用継続中。
NROL（National Reconnaissance Office Launch）ミッション
NROL概要:
NROLミッションは、米国国家偵察局（NRO）が運用する機密偵察衛星の打上げである。
最近の実績:
- 過去2年間: 150機以上のNRO衛星打上げ（米国史上最大・最高性能のコンステレーション） (4)
- 2025年計画: 約12回のNRO打上げ
Vandenbergの役割:
極軌道・太陽同期軌道への打上げに最適な立地であり、偵察・地球観測ミッションに適している。
5.2 NASA地球観測ミッション
Sentinel-6（海面高度観測）
Sentinel-6 Michael Freilich (27):
- 打上げ日: 2020年11月（Vandenberg AFB、Falcon 9）
- ミッション: 海面高度観測（30年以上の記録継続）
Sentinel-6B (27):
- 打上げ日: 2025年11月16日 21:21 PST（Vandenberg SFB、Falcon 9）
- 観測範囲: 地球の海洋の90%以上
- 国際協力: 米国・欧州共同ミッション
SWOT（Surface Water and Ocean Topography）
SWOT概要 (28):
- 打上げ日: 2022年12月15日（Vandenberg SFB、Falcon 9）
- 主管: NASA、フランス国立宇宙研究センター（CNES）
- ミッション: 海洋・河川・湖沼の観測
観測能力:
- 海洋観測: 現行技術の10倍の解像度
- 河川・湖沼: 100万以上の湖沼・河川を測定
OCO-2（Orbiting Carbon Observatory 2）
OCO-2概要 (29):
- 打上げ日: 2014年7月2日（Vandenberg AFB、Delta II）
- ミッション: 地球の二酸化炭素・植物成長測定
- 背景: OCO（2009年打上げ失敗）の代替機
5.3 商業ミッション
Starlink極軌道コンステレーション
Starlink極軌道展開 (30):
SpaceXは、Vandenbergから極軌道Starlinkコンステレーションを展開し、極地域のインターネット接続を提供している。
打上げ頻度:
- 2021年以降: 月1回のStarlink極軌道打上げ
- 2025年: Starlink衛星2,000機以上展開
Iridium NEXTコンステレーション
Iridium NEXT展開:
- 打上げロケット: Falcon 9（SLC-4E）
- 総衛星数: 60機以上
- 打上げ回数: 8回（2017-2019年）
完了:
Falcon 9ブースターB1049が、2019年に最終バッチを打上げ、Iridium NEXTコンステレーションを完成させた。
5.4 GPS衛星打上げ
GPS衛星打上げ実績 (3):
1978年以降、SLC-3EからAtlas E/Fロケットにより、初期のGPS（Global Positioning System）衛星が打上げられた。
6 国際協力
6.1 カナダRADARSAT
RADARSAT-1
RADARSAT-1打上げ (31):
- 打上げ日: 1995年11月4日（Vandenberg AFB、Delta II、SLC-2W）
- ミッション: カナダ初の商業地球観測衛星
- センサー: 合成開口レーダー（SAR）
RADARSAT Constellation Mission（RCM）
RCM打上げ (32):
- 打上げ日: 2019年6月12日（Vandenberg AFB、Falcon 9）
- 衛星数: 3機（コンステレーション）
- 開発: カナダ宇宙庁、民間セクター支援
- ミッション: C-Bandデータ提供、カナダ海域の毎日観測
国際協力:
カナダは1979年1月1日以降、ESAの「協力国（Cooperating State）」の地位を有しており、ESA、NASAとの協力を継続している。
6.2 ESA（欧州宇宙機関）衛星
ESA衛星打上げ実績:
Vandenbergから、ESA Sentinel衛星（Sentinel-6等）を含む欧州宇宙機関の地球観測衛星が打上げられている。
7 将来計画
7.1 SLC-6運用開始（2027年）
運用計画 (5):
- 2027年運用開始目標
- 年間打上げ能力: 25回（Falcon 9）+ 5回（Falcon Heavy）
- Vandenberg全体: 年間100回打上げ（SLC-4Eと合計）
Falcon Heavy極軌道ミッション:
SLC-6は、Falcon Heavyによる重量級ペイロードの極軌道打上げを可能にする。
7.2 Western Range近代化（2025-2035年）
近代化契約 (21):
- 契約日: 2025年6月2日
- 契約相手: Jacobs Technology Inc.
- 契約上限: 40億ドル
- 完了予定: 2035年3月31日
主要改善項目:
- 自動飛行安全システム（AFSS）: ロケット上の安全プロトコル自動化
- Plug-and-Playシステム: 打上げパートナー独自アプリ使用可能
- Combined Space Operations Center建設
- 道路、海港の改善
目標:
毎日打上げ可能な「未来のスペースポート」への転換。
7.3 Firefly Alpha拡大
Firefly Alpha運用拡大 (22):
- Vandenberg SLC-2W: 継続運用
- Wallops Flight Facility: 2026年運用開始（NASA INCUS ミッション）
- Cape Canaveral SLC-20: 低傾斜角打上げ
- Esrange Space Center（スウェーデン）: 2027年運用開始（欧州・NATO市場）
Responsive Launch能力:
Alphaは、24時間通知での打上げを実証した唯一のロケットであり、米国宇宙軍のResponsive Launch要求に対応。
8 まとめ
8.1 歴史的・戦略的重要性
Vandenberg Space Force Baseは、1941年のCamp Cooke設立以来、84年の歴史を持ち、米国の宇宙戦略の中核を担ってきた (2,3)。
主要マイルストーン:
- 1941-1958年: Camp Cooke陸軍訓練基地
- 1958-1970年代: ICBM試験時代（Atlas、Titan）
- 1960-1980年代: 偵察衛星時代（Corona、KH-11）
- 1979-1989年: Space Shuttle計画（中止）
- 1990-2012年: 商業化時代（Delta II、Atlas V、Delta IV Heavy）
- 2013年～: SpaceX時代（年間100回打上げへ）
8.2 極軌道打上げの中核
Vandenberg Space Force Baseは、米国西海岸唯一の軌道打上げ射場として、極軌道・太陽同期軌道打上げに特化した戦略的拠点である (1)。
戦略的優位性:
- 地理的位置（西海岸、南向き打上げで極軌道最適）
- 米国軍事偵察衛星の主力打上げ拠点
- 2,000回以上の打上げ実績（1958年～2008年）
- 2024年51回打上げ（史上最多）
8.3 将来展望
- 年間100回打上げ体制: SLC-6運用開始により、Vandenberg全体で年間100回打上げ達成
- Falcon Heavy極軌道運用: 重量級ペイロードの極軌道打上げ
- Western Range近代化: 40億ドルの近代化計画（2025-2035年）
- 経済影響拡大: 45億ドル → 60億ドル（2030年）
- 新規雇用創出: 年間2,000人（航空宇宙産業）
結論:
Vandenberg Space Force Baseは、84年の歴史を経て、米国の極軌道打上げの中核から、世界第2位の活動量を誇るスペースポートへと進化を続けている。2027年以降、年間100回打上げ体制により、世界のSpace EconomyにおけるVandenbergの戦略的重要性はさらに高まる見込みである (5)。