JIS B 9700入門 — 機械安全の基本原則と3ステップメソッド
安衛法の措置義務を技術的に具体化するA規格(基本安全規格)を体系的に理解する
1 はじめに — なぜJIS B 9700から始めるのか
機械安全の世界には数百の規格が存在する。ISO、IEC、JIS、EN——多くの技術者がこの規格の海に圧倒され、「結局どこから手をつければよいのか」と迷う。
出発点となるのは、JIS B 9700(ISO 12100 IDT)である。
JIS B 9700は、機械安全規格の階層構造において唯一のA規格(基本安全規格)に位置づけられる(1)。すべてのB規格(グループ安全規格)やC規格(個別機械安全規格)は、この規格が定める基本原則の上に成り立っている。JIS B 9700を理解せずに個別規格を適用することは、基礎なしに建物を建てるに等しい。
本記事では、JIS B 9700の核心であるリスクアセスメント(Risk Assessment)と3ステップメソッドを、製鉄所やロケット射場といった「低頻度・高重篤度」の産業に照らしながら解説する。
2 1. 機械安全規格の階層構造
国際規格は、ISO/IECガイド51に基づき3段階の階層構造に分類される(2)。
2.1 A規格(基本安全規格)
すべての機械に適用可能な基本概念、設計原則、一般的側面を規定する。
- JIS B 9700:2013(ISO 12100:2010 IDT) — 機械類の安全性 — 設計のための一般原則 — リスクアセスメント及びリスク低減
JIS B 9700(ISO 12100)はA規格の唯一の規格である。機械安全のあらゆる議論はここを起点とする。
2.2 B規格(グループ安全規格)
広範な機械類に適用可能な安全側面(B1)または安全防護物(B2)を規定する。
B1規格(安全側面):
- ISO 13857(JIS B 9718)— 安全距離(上肢・下肢の到達防止距離)
- ISO 13732 — 表面温度に関する人間工学
- ISO 11688 — 機械騒音の低減指針
B2規格(安全防護物):
- JIS B 9705-1:2019(ISO 13849-1:2015 IDT)— 安全関連制御システムの設計(PL/SIL)
- JIS B 9710(ISO 14119)— インターロック装置
- JIS B 9716(ISO 14120)— ガード(固定式、可動式)の設計要求
- JIS B 9961(IEC 62061)— 機械の電気・電子制御系における機能安全
2.3 C規格(個別機械安全規格)
特定の機械または機械群に対する詳細な安全要求事項を規定する。
- ISO 10218 — 産業用ロボット
- ISO 16092 — 工作機械(プレス)
- EN 12012 — ゴム・プラスチック用機械
2.4 階層の適用原則
C規格が存在する機械には、C規格の要求事項が優先適用される。C規格が存在しない機械、あるいはC規格が扱わない側面については、B規格を参照し、最終的にA規格(JIS B 9700)の原則に立ち返る。
製鉄所の高炉周辺設備やロケット射場の推進剤取扱い設備のように、標準的なC規格が存在しない大規模・特殊設備では、A規格(JIS B 9700)とB規格群を直接適用してリスクアセスメントを実施する必要がある。これは、加工機械のようにC規格のチェックリストに従えばよい場合とは根本的に異なるアプローチであり、設計者自身がリスクアセスメントの全プロセスを遂行する能力が求められる。
3 2. JIS B 9700が定める基本概念
3.1 2.1 リスクの定義
JIS B 9700は、リスクを以下のように定義する(1):
リスク = 危害の重篤度 × 危害の発生確率
ここで、危害の発生確率はさらに以下の要素に分解される:
- 危険源への人の暴露頻度・時間
- 危険事象の発生確率
- 危害を回避・制限できる可能性
3.2 2.2 機械のライフサイクル
JIS B 9700はリスクアセスメントの対象範囲を、機械の使用期間中のすべてのフェーズと定める(1):
- 輸送・組立・据付 — 設置工事中の機械的危険源
- 試運転・調整 — 初期運転時の不確実性
- 通常運転 — 定常作業中のリスク
- 保守・点検 — 停止中の機械への接近
- 故障対応・トラブルシューティング — 非定常作業
- 解体・廃棄 — 残留エネルギー、有害物質
産業設備の運転パターンは多様である。化学プラントのような連続運転だけでなく、射場設備のように年数回・短時間の運転と長期待機を繰り返す間欠運転(ミッション型)の設備も存在する。間欠運転設備では、待機中に進行する静的劣化(腐食、シール硬化、可動部の固着)や、稼働するまで発覚しない隠れ故障(Hidden Failure)が固有のリスクとなる。
JIS B 9700が対象とするライフサイクルには通常運転だけでなく、こうした待機期間も含まれる(1)。通常運転のみを対象とするリスクアセスメントでは、間欠運転設備の待機中リスクを捕捉できない。
3.3 2.3 危険源(Hazard)の分類
危険源の同定に用いるリストは複数の規格で提供されている:
| 規格 | 危険源リストの特徴 |
|---|---|
| JIS B 9700附属書B(ISO 12100) | 7カテゴリの基本分類。A規格として原則的な枠組みを提供 |
| JIS B 9702:2000附属書A(旧ISO 14121-1) | No.1〜37の詳細な危険源リスト。ISO 12100への統合前の旧規格だが、項目の具体性から実務で広く参照される(3) |
| ISO/TR 14121-2:2012 | リスクアセスメントの実務ガイダンス。危険源同定の構造的手法と手法別の適用例を提供(4) |
以下はJIS B 9700附属書Bの基本カテゴリに、製鉄所・射場での具体例を対応させたものである:
| カテゴリ | 危険源 | 製鉄所での例 | ロケット射場での例 |
|---|---|---|---|
| 機械的 | 押しつぶし、せん断、巻き込み | コンベヤ駆動部への巻き込み | クレーン・揚重作業中の挟まれ |
| 電気的 | 感電、静電気放電 | 保守時の充電部接触 | 地上系電気設備の保守時感電 |
| 熱的 | 高温・低温接触 | 溶融金属飛散(溶鋼の融点は約1,500°C(5)) | 極低温推進剤(液体水素: -253°C(6)) |
| 騒音 | 聴覚障害 | プレス・鍛造機の衝撃音 | エンジン燃焼音(ロケット直近で150dB超(7)) |
| 物質・材料 | 有害物質の吸入・接触 | 粉塵、COガス(8) | 推進剤蒸気(ヒドラジン系の急性毒性(9)) |
| 人間工学的 | ヒューマンエラー | 操作手順の省略 | 組立・検査工程での手順違反 |
| 制御系 | 制御故障、意図しない起動 | 保守中の意図しない起動 | 保守中の意図しない起動 |
低頻度・高重篤度産業の特徴として、複数の危険源が連鎖するケースが多い。例えば:
- 推進剤漏洩(物質的危険源)→ 静電気放電(電気的危険源)→ 爆発・火災(熱的危険源)
- 高所作業(機械的危険源)→ 強風(環境的危険源)→ 墜落
JIS B 9700は個々の危険源の同定だけでなく、危険源の組み合わせ(附属書B カテゴリK)の評価も求めている。単独では許容可能なリスクであっても、組み合わせにより許容不可能となる場合がある。
4 3. リスクアセスメントのプロセス
JIS B 9700が規定するリスクアセスメントは、以下のプロセスで構成される(1):
意図する使用、予見可能な誤使用の明確化
すべてのライフサイクルフェーズで特定
危害の重篤度 × 発生確率
リスク低減の必要性を判断
① 本質的安全設計 → ② 安全防護・付加保護方策 → ③ 使用上の情報
4.1 3.1 機械の制限の決定
リスクアセスメントの最初のステップは、機械の使用上の制限を明確にすることである:
| 制限の種類 | 内容 | 例(ロケット射場の移動発射台) |
|---|---|---|
| 使用上の制限 | 意図する使用と予見可能な誤使用 | ロケット搬送・起立・発射。誤使用: 手順省略、確認漏れ |
| 空間的制限 | 設備の設置範囲、作業範囲 | 射点エリア、組立棟〜射点間の移動経路 |
| 時間的制限 | 運転期間、フェーズ | 組立期間、最終整備、カウントダウン、発射後点検 |
| 対象者 | 暴露される人 | 射点作業員、保守要員、協力会社要員、見学者 |
予見可能な誤使用は、JIS B 9700が特に重視する概念である(1)。JIS B 9700附属書Bおよび基発指針が示す典型的なパターンには以下がある:
- 機器の誤動作・暴走時の反射的行動
- 集中力低下・不注意
- 生産プレッシャーによる操作ミス
- ショートカット行動・手順省略
- 規定された工具・保護具の不使用
- 許可されていない人のアクセス
4.2 3.2 リスクの見積り
リスクの見積りに用いるパラメータは、JIS B 9700が一般原則を定め、具体的な手法は組織や業界が選択する(1)。以下に示す見積りパラメータの記号体系は、JIS B 9700附属書B、JIS B 9705-1(ISO 13849-1)のリスクグラフ、および日本機械工業連合会のリスクアセスメントガイドライン(10)に基づく一般的な分類を参考にした例である(11):
一般的なリスク見積りパラメータの例:
危害の重篤度(S):
| レベル | 定義 | 製鉄所の例 | 射場の例 |
|---|---|---|---|
| S1 | 軽微な傷害(処置不要) | 軽い火傷 | 軽度の打撲 |
| S2 | 軽傷(治療必要、休業なし) | やけど(通院) | 軽度の薬品暴露 |
| S3 | 中程度の傷害(短期休業) | 骨折 | 耳鳴り(一時的聴覚障害) |
| S4 | 重傷(長期休業・後遺障害) | 重度火傷、四肢切断 | 重度の毒性物質暴露 |
| S5 | 死亡 | 溶融金属への落下 | 推進剤爆発 |
危険事象の発生確率(O)(1):
| レベル | 定義 |
|---|---|
| O1 | ほぼあり得ない(安全設計により隔離済み) |
| O2 | 起こり得る(不完全な防護、アクセス可能) |
| O3 | 高い(防護なし、頻繁なアクセス) |
暴露頻度(F):
| レベル | 定義 |
|---|---|
| F1 | まれ(月1回未満) |
| F2 | 時々(月1回〜毎日) |
| F3 | 頻繁(毎日) |
低頻度・高重篤度の産業では、リスク見積りにマトリクス法が適している。リスクグラフ法では暴露頻度が低い場合にリスクが一律に低く評価されがちだが、マトリクス法では重篤度の軸を独立して細かく区別できるため、「頻度は低いが起きたら致命的」というリスクを適切に捕捉できる。
ISO/TR 14121-2:2012はISO 12100のリスクアセスメント実装ガイダンスとして、マトリクス法・リスクグラフ法・数値スコアリング法の具体的な実践例を示している(4)。両手法の使い分けの目安は以下の通りである:
- マトリクス法: トリアージ・関係者の合意形成に適する。多数のハザードの相対比較が容易
- リスクグラフ法: 安全制御システムのPLr決定に特化(ISO 13849-1 Annex A)。構造的で再現性が高い
以下は5×3マトリクスを前提とした例示であり、組織のリスク評価基準によってレベル定義は異なる。S5(死亡)× O2(起こり得る)のリスクは、暴露頻度F1(まれ)であってもリスクレベルIV〜V(許容不可能)と評価されうる。リスクグラフ法ではこれがF1の影響で過小評価される場合がある。
5 4. 3ステップメソッド — リスク低減の基本戦略
JIS B 9700(および基発指針)が定めるリスク低減策は、以下の優先順位で適用する[(1)](12)。これを3ステップメソッドと呼ぶ。
5.1 ステップ1: 本質的安全設計(Inherently Safe Design)
危険源そのものを排除または低減する。3ステップメソッドにおいて最優先のリスク低減策である(1)。
原則:
- 危険源の排除(鋭利な角の除去、有害物質の代替等)
- エネルギーの制限(速度、力、圧力の低減)
- 人と危険源の空間的・時間的分離
低頻度・高重篤度産業での適用例:
| 適用例 | 内容 |
|---|---|
| 遠隔操作化 | 射場の推進剤充填を完全遠隔で実施。作業者を危険区域から排除する |
| 自動化シーケンス | 発射カウントダウンの自動化。人的判断を介在させず、異常時は自動で安全側に遷移 |
| 不活性ガスパージ | 高炉ガス系統の作業前に窒素パージを実施し、可燃性ガスを排除 |
| 物理的距離 | 射場の安全距離設定(13)。爆風・破片の到達範囲外に管制施設を配置 |
5.2 ステップ2: 安全防護(Safeguarding)
ステップ1で排除・低減できなかった残留リスクに対し、ガード(隔離)を優先的に設置し、ガードで対応できない場合に保護装置(停止制御)を適用する。
ガードの種類(14):
| 種類 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 固定式ガード | 恒常的にアクセスを制限する箇所 | 工具なしでは取り外し不可。構造が単純で信頼性が高い |
| インターロック付き可動式ガード | 定期的にアクセスが必要な箇所 | ガード開放で機械停止。閉鎖確認後に再起動可能 |
| 施錠式インターロック付きガード | 機械停止に時間を要する箇所 | ガードの開放をロックし、完全停止後に解錠 |
| 調節式ガード | ワークサイズが変動する箇所 | 開口寸法を調整可能 |
安全装置の例:
- ライトカーテン(光電式保護装置)— 検知エリアへの侵入を検出し、機械を停止
- レーザスキャナ — 広域の侵入検知
- トラップキー — エネルギー遮断と物理的施錠を連動
- 両手操作制御装置 — 両手が操作位置にあることを確認してから起動
製鉄所やロケット射場では、設備の物理的サイズが大きいため、加工機械のような「機械全体を囲うガード」は現実的でない場合が多い。代わりに:
- エリア管理(ゾーニング)— 危険区域を定義し、入退場をインターロックで管理
- 安全距離の確保 — JIS B 9718に基づく到達防止距離の計算
- 検知型安全装置(レーザスキャナ等)— 広域の侵入監視
が組み合わせて適用される。
5.3 ステップ3: 使用上の情報(Information for Use)
ステップ1・2で十分にリスクを低減できない場合の最後の手段として、警告・教育・手順書で残留リスクを伝達する。
手段:
- 残留リスクの警告表示(ラベル、標識)
- 取扱説明書・操作手順書
- 教育訓練
- 個人用保護具(PPE)の指定
3ステップメソッドの優先順位は厳格である。「警告ラベルを貼ればよい」「教育すれば十分」という考え方は、基発指針・JIS B 9700の原則に反する。
特に低頻度運転環境では、人は教育された手順を忘れる。年に数回しか実施しない作業の手順を完璧に記憶し続けることは、人間の認知特性上困難である。
したがって、低頻度・高重篤度の設備では、ステップ1(本質的安全設計)とステップ2(安全防護)を最大限に適用し、ステップ3への依存度を最小化することが原則となる。
5.4 3ステップメソッドの優先順位
5.5 設計者と使用者の保護方策
JIS B 9700:2013 図2は、3ステップメソッドを含む保護方策の全体像を示している。設計者が講じる保護方策(ステップ1〜3)と使用者が講じる保護方策の関係、およびリスクが段階的に低減される過程を以下に示す(1)。
- 組織: 安全作業手順、監視、作業許可システム
- 追加安全防護物の準備及び使用 注d
- 保護具(PPE)の使用
- 訓練
設計者の保護方策(ステップ1〜3)は優先順位ありで適用される。一方、使用者による保護方策(組織、追加安全防護物、保護具、訓練)には優先順位がない(注c)。この非対称性は重要である — 設計段階で組み込める方策は使用段階の方策より効果が高く、優先される。
注b) 使用者入力とは、設計者が受け取る「意図する使用」に関する情報を指す。使用者の作業環境・作業方法等の情報が設計にフィードバックされることで、より適切な保護方策の選択が可能になる。
6 5. 残留リスクの文書化
3ステップメソッドを適用してもリスクをゼロにすることはできない。JIS B 9700は、リスク低減後に残る残留リスク(Residual Risk)の文書化を求めている(1)。
残留リスクの文書化は、以下の観点から極めて重要である:
- 使用者への情報提供 — 機械を使用する側が残留リスクを認識し、追加的な保護措置(PPE、作業手順等)を講じるための基盤
- 継続的改善 — 技術の進歩や運用経験の蓄積に伴い、残留リスクをさらに低減する機会を特定
- 法的防御 — リスクアセスメントの実施と残留リスクの開示は、PL法(製造物責任法)における「設計上の欠陥」に対する防御の基盤
7 6. 日本における法的位置づけ — 法令チェーン
7.1 安衛法の措置義務
日本における機械安全の法的根拠は、労働安全衛生法(安衛法)第20条にある(15)。同条は、事業者に対し機械等による危険を防止するために必要な措置を講じることを義務(強行法規)として規定している。また第28条の2はリスクアセスメントの実施を努力義務として定める。
7.2 基発指針 — 安衛法を技術的に具体化する行政基準
安衛法第20条の措置義務を技術的に具体化する行政基準として、厚生労働省は以下を公表している:
7.3 機能安全指針 — 告示353号
2016年9月、厚生労働省は安衛法第28条第1項に基づく技術上の指針として「機能安全による機械等に係る安全確保に関する技術上の指針」(厚労省告示第353号)を公布した(17)。同告示は基発指針と「相まって」、電子等制御による安全確保(機能安全)の基準を規定する。IEC 61508のSIL(安全度水準)とISO 13849のPL(パフォーマンスレベル)が、要求安全度水準の指標として明示的に採用されている。機能安全を適用した安全制御システムの設計については、記事4「安全制御システムの設計」§7で詳述する。
7.4 JIS B 9700 — 基発指針が参照する技術規格
JIS B 9700:2013は、ISO 12100:2010の一致規格(IDT)である(1)。技術的内容に差異はない。基発指針が参照する技術規格として、日本国内における機械安全の技術的基準の役割を果たす。
なお、JISは任意規格であり、法令で直接強制されるものではない。しかし、基発指針がJIS B 9700の方法論を採り入れていることから、基発指針との整合の観点から実務で参照されることが多い。
7.5 法的責任の3つの側面
機械安全に関する法的責任は、以下の3つの側面から問われる可能性がある:
| 責任の種類 | 根拠法 | 内容 |
|---|---|---|
| 刑事責任 | 刑法(業務上過失致死傷罪) | 禁固刑または罰金 |
| 民事責任 | 製造物責任法(PL法)、民法 | 損害賠償 |
| 行政責任 | 労働安全衛生法 | 安衛法第98条に基づき、第20条(機械等による危険防止)・第21条〜第25条等の違反がある場合に作業停止・使用停止命令等の行政措置が発動されうる(15)。第99条は労働災害の急迫した危険がある場合の緊急措置命令を規定 |
8 7. 次に学ぶべきこと
JIS B 9700は機械安全の基本原則を定めるが、具体的な実装方法は個別のB規格・C規格に委ねている。JIS B 9700を理解した後は、以下の規格を目的に応じて参照する:
| 目的 | 参照規格 | 概要 |
|---|---|---|
| リスクアセスメントを実施したい | JIS B 9700附属書B、JIS B 9702 | 危険源リストと見積り方法 |
| 安全制御システムを設計したい | JIS B 9705-1(ISO 13849-1) | パフォーマンスレベル(PL)による設計 |
| 機能安全を適用したい | JIS B 9961(IEC 62061)、IEC 61508 | 安全度水準(SIL)による設計 |
| ガードを設計したい | JIS B 9716(ISO 14120) | ガードの設計要求 |
| 安全距離を計算したい | JIS B 9718(ISO 13857) | 到達防止距離の計算 |
| プロセス安全を適用したい | IEC 61511 | プロセス産業向け機能安全 |
| OTセキュリティを確保したい | IEC 62443 | 産業オートメーション制御システムのセキュリティ |
- JIS B 9700(本記事)→ 基本原則の理解
- リスクアセスメント実践 → マトリクス法によるリスク見積り
- JIS B 9705-1 / JIS B 9961 → 安全制御システムの設計
- IEC 61508 / IEC 61511 → 機能安全・プロセス安全
- 業界固有の安全設計 → 製鉄所設備安全、射場設備安全
特に製鉄所やロケット射場では、機械安全(JIS B 9700系)とプロセス安全(IEC 61511系)の両方の知識が必要となる。これは一般的な加工機械と大きく異なる点である。
9 まとめ
JIS B 9700は、機械安全規格の「憲法」に相当するA規格(基本安全規格)である。その核心は:
- リスクアセスメント — 危険源を特定し、リスクを見積り・評価する
- 3ステップメソッド — 本質的安全設計→安全防護→使用上の情報の優先順位でリスクを低減する
- ライフサイクル全体 — 設計から廃棄まで、すべてのフェーズを対象とする
- 残留リスクの文書化 — 低減後に残るリスクを明示し、使用者に伝達する
製鉄所やロケット射場のような低頻度・高重篤度の産業では、「頻度が低いからリスクも低い」という誤解に陥りやすい。安衛法・基発指針・JIS B 9700のフレームワークに従い、重篤度を正しく評価することが、致命的な労働災害を防ぐ第一歩である。